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「久しぶりに来たな...」
啓介は目の前の一軒家のインターホンを押し呟く。
片手で自分の乗ってきた原付を支えながら家の主が出てくるのを待つ。
「おー啓介、久しぶりだな。」
出迎えてくれたのはことりの母、春子だった。
「久しぶりだな、春ねえ。ちょっと原付駐車場に止めさせてくれないか?」
「あいよ、この辺に置いといてくれたらいいよ。」
啓介は指示された場所に原付を置き、持ってきた手土産と共に家の中へ入っていく。
「ちょっとリビングの方で待っててくれ。」
「わかった。後これ、ケーキなんだけど、ことりとの約束でさ。」
「おー、わざわざ悪いな。ありがとう。じゃあちょっと冷蔵庫に入れておいて後で出すわ。」
玄関でケーキを春子に渡し、リビングへと繋がる扉を開く。
「ばぁー!」
扉を開けてすぐ横にいたことりが啓介を出迎えると同時に驚かせようと仕掛ける。
一方の啓介は冷静な表情を見せ、ことりの方へ目を向ける。
「あ、あれ?どういう気持ちなの?怒ってる?おーい。」
「驚かせてくると読んでたのに驚いてしまった…」
「てことは固まってるんだね。へへん、ことりの勝ち〜!負けた方には罰ゲームなのですよ!」
と固まる啓介を引っ張ってローテーブルの前に座らせようとする。啓介のポケットから慣れた手つきで携帯を取り出しロックを解除する。
「途中だったけどちゃんとインストール出来てるね!じゃあアプリの続きだよー!」
「おいおい、啓介来たらすぐご飯だって言っただろ。ほら、机の上拭いて用意してくれ。」
「えー...んー...わかったよ。けいちゃん!後でやってよね!」
と言ってキッチンの方に駆け寄ることり。
啓介は「何か手伝おうか?」と聞くも「お客さんなんだから座って待ってくれ」と言われ先ほどのテーブルに戻る。
時刻はもうそろそろ12時になろうとしている。
昼食にはいい頃合いだろう。
春子の出してくれた昼食を食べ終えて腹いっぱいになった一同。早速、ことりの約束のアプリをしながら春子が話しかけてくる。
「啓介、あんた近くで勤務することになったら家に遊びに来るよって言って全然来てくれないじゃないか。寂しいねぇ。うちはいつでもウェルカムなんだよ?」
「いやー、なかなか行くよって言い辛くてさ。春ねえの都合もあるだろうし、今日も昼ご飯誘ってもらってなければケーキ置いて帰るつもりだったんだが...」
「だからうちはウェルカムなんだって。」
少し笑みを浮かべながら手持ちにあるお茶を飲み春子は言う。
「あんた、やっぱ変わったね。」
春子は啓介の顔を見て言う。
「逆に春ねえは何も変わんないけどな。」
「うるせぇ!」
2人はお互い笑いながら昔のことを思い出す。
「ねえ!次けいちゃんの番!」
ことりは啓介の袖をくいっと引っ張って携帯を差し出す。
相変わらずこのアプリなんなんだよ...。
ことりが勧めてきたアプリは所謂クソゲーであった。
日向 春子
34歳 ことりの母親
兄である啓介の父親とは13歳も離れており、実家に来た幼少期の啓介をよく相手にしていたため、啓介のことはよく知っている。
男勝りな部分が多く、口調にも現れている。
ことりのアホさを少し心配している。