優しい人
君は優しい人だからって
言われたりした時もあったけど
正直 あまり嬉しくはなくて
だって僕がこれまで見てきた
優しい人ってさ
いつも頬を痩けさせ
力無く笑っていたから
自らの飢えを顧みず
他者に食料を分け与える
そんなどこかの国の
救世主様みたいに
みんながその人を頼っても
優しい彼はそれを断らず
厳しい風の矢面に立たされて
弱った体を晒していた
一方で
肥え太った僕たちは
彼の陰に隠れながら
馬鹿話に興じて笑いあってる
そんな彼が遂には耐えきれず
力尽き 倒れ 事切れたとき
使えねえと吐き捨てる言葉以外に
誰もその死を悼まなかった
そんな僕たちは
次の寄生先を探すため
傷付き見捨てられたと
声を大にして弱者を演じてる
こんなクズみたいな僕を守るため
命を削って行った人に
優しい人何て言われても
後継者になれって言われたみたいで
嬉しいはずなんてないだろう
僕はいつだってそうだった
傷付いた 騙された 取り上げられた
そうやって叫ぶばかりで
支えられて 背負われるのが当たり前になって
自分の足で立とうとしなかった
だけど今になって思うのは
彼はそんなのにはとっくに気付いていて
都合良く使われるのているのも分かっていて
それでも共に歩んでくれていたんだ
一人ならどうとでも生きられたはずなのに
見捨てず 見放さず共にいてくれたんだ
彼は本当に優しい人だったから
ある日仲間内で討論になってさ
彼を殺したのはこの世界か僕らかって
僕らごと彼を救わなかった世界か 彼を喰らい尽くした僕らかって
最初はただの暇潰しの遊び半分だったけど
その内白熱し始めて意見が二つに割れた頃
僕らは集団ではなくなった
あれからどれくらいが経っただろう
僕はまだ彼を覚えていて
少しだけ痩せた顔に笑顔浮かべて向かい風の前に立っている
君は優しい人だからって
言われたあの時は本当に嬉しくなかった
本当に嬉しくなかったのに
汚い、ズルい自分が変われるとするなら
それはやっぱり人からもらった言葉なのかもしれなくて
そう思える様になりたいです