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【6話】初めての仕事

初投稿です!

「ねえ師匠、どうすれば宮川さんと付き合えると思う?」


「誰が師匠だ。俺はお前の師匠になった覚えはない」


「でも青山くんって僕の恋のキューピッドになったんだよね?」


「ほとんど強制的にな」


「じゃあ師匠でいいじゃん!青山くんはこれから僕の恋を導く師匠ってことで!」


「はいはい。もうそれでいいよ」


 俺が恋のキューピッドになってちょうど一日が経った。

 今は昼休みだ。いつもならぽかぽか陽気に照らされて絶賛お昼寝中なのだが、今日は一宮がそうはさせてくれない。

 なんでも「恋の作戦会議」とやらをするらしい。


 意味が分からない。


 だがこれも全て恋のキューピッドの仕事.....なのだろう。

 さっさとこの役回りから開放されて普通の高校生活をしたいのだが.....


 と、ひとつ確認しなければいけないことを思い出す。


「なあ、一宮。」


「なあに?」


「恋のキューピッドって何をすればいいんだ?俺にできることってそんなにないと思うんだが」


「大丈夫だよ!簡単なことばっかりだから」


「そ、そうか。なら良かった」


 簡単なことなら俺にもできそうだ。

 思い、俺は安心する。


「青山くんにやってもらうのはひとつだけ!宮川さんの情報収集だよ!」


 一宮は笑顔で言った。


「それで?俺はどんな情報を収集すればいいんだ?」


 簡単な情報収集なんてあるのか。

 宮川の利き手とか利き足は左手か右手か、とかだろうか。


「えーとね。趣味とか好きなタイプとか好きな食べ物、とかかな」


 簡単な.....こと?


「あれ?一宮、簡単なことばっかりって言わなかったか?」


 あれは俺の空耳だったのか?

 それともこの情報収集が簡単だと思わない俺がおかしいのか?


 いや、それはない。情報収集なんて難しいことランキング一位だぞ。.........たぶん。


「うん言ったよ」


「それのどこが簡単なことなんだよ!」


「簡単でしょ?青山くんならこれくらい」


 当然のように一宮はいう。


 簡単なわけあるか。一宮は俺のことをどう思っているんだ。

 俺は恋愛マスターでもなんでもない、普通の一般生徒だ。


 それに宮川の趣味や好きなタイプなんて本人やその友達に聞かなければ分からないことばかりじゃないか。


 平凡な俺には少しハードルが高い。


 まあ、できないこともないのだが.....


 宮川とは一応、面識はある。話したこともある。頼めば教えてくれそうな気もするのだ。

 だからと言って行動に移せるかどうかは別である。


「なあ、もうひとつ質問いいか?」


「いいよ!」


「単純な疑問なんだが.....この恋のキューピッドっていつまでやればいいんだ?やっぱり告白するまでか?」


 おそらく告白するまでだが、一応聞いておく。


「え、一生だけど?」


「へ?」


 予想外の答えが返ってきた。


 今こいつなんて言った?

 一生?一生って言ったか?

 つまり、俺は死ぬまで一宮と.....


 怖っ!一宮怖っ!


 可愛い顔でなんて怖いことを言うんだろう。


「嘘だよ、うそうそ。まあ、僕と宮川さんが恋人になるまで.....かな」


 なんだ、恋人になるまでか.....と一瞬思ったが、ちょっと待って欲しい。

 裏を返せばこれはつまり恋人になれなければ俺はやっぱり一生.....

 うわ、怖っ!一宮怖っ!


 とその先は怖いので俺は考えるのをやめた。


「それで師匠、僕はどうすれば宮川さんと付き合えるかなあ?」


「その可愛い顔で愛の囁きでもすればいいんじゃないか?大抵の人間はそれで落ちてくれるはずだ」


「ちょっ、ちょっと真面目にかんがえてよ!」


 頬を真っ赤に染め上げ、一宮は言う。

 どうやら恥ずかしかったらしい。


 だが別に真面目に考えてなかったわけではない。

 むしろ、一番成功率が高い方法を提案した自負があるし、一宮にそんなことをされた日には俺も落ちる自信がある。


「そもそも、そもそもの話だが.....一宮。今、宮川がフリーっていう確証はあるのか?宮川なら彼氏がいても不思議じゃないと思うぞ」


「そ、そう.....だね。確かに。」


 何しろあの美人な顔に、抜群のスタイルだ。引く手数多だろう。


「あの青山くん?頼みがあるんだけど」


 申し訳なさそうな顔で一宮は言う。


「嫌だ」


 俺は即座にNOの意を示す。

 一宮が次に何を言うかは想像に難くなかったからだ。


「え!?まだ何も言ってないんだけど!」


「彼氏がいるかどうかなんて俺は聞かないからな」


「なんで分かったの!?」


「いや、流れで分かるだろ」


「お願い.....」


「そんな可愛い顔しても駄目だ」


「ちぇっ.....師匠のくせに!」


 一宮は、はぁとため息をついた。


「ほんとにどうすればいいかなあ?」


 一宮は言う。


「とりあえず告白してみたら?」


「そ、それは無理だよ。だってまだ話したこともないんだよ!いきなり告白なんてしても振られるに決まってるでしょ?」


「まあ、そうだな。じゃあ、会話ならいけるか?」


 俺は宮川の席を指しながら言う。


 宮川の席は窓際の一番後ろという誰もが羨むベストプレイスである。


「え、今?」


「ああ」


「む、無理だよ」


「なんで?」


「いやその、は、恥ずかしくて」


「一宮、そんなことでどうするんだ?会話も出来ないようじゃカップルになるなんて夢のまた夢だぞ」


 俺は何を言っているんだ?一宮を焚きつけるようなことを言って。


 いや、違う。


 これが俺の仕事だ。恋のキューピッドの仕事なのだ。


 もしかしたら一宮はこういった自分の性格が分かった上で俺に恋のキューピッドなんてものを頼んだのかもしれない。


「わ、分かった。うん。そうだよね!そうだよ!師匠、見ててね!僕、頑張るよ!」


 一宮は立ち上がり宮川の席を見据える。


 深呼吸をする。


 そして、一宮は歩き出す。


 ゆっくりと歩いていった。


 一歩一歩、宮川との距離が縮まってい

 く。


 心の距離ではなく物理的な距離だが。


 一宮は震える足で必死に歩く。


 段々と、段々と近づいていく。


 そして、宮川の席の前で立ち止まった。


「あの、あああの」


 何語かも分からない言葉を言ったかと思うと、


「あのそのえ、えーと」


 一宮は固まった。


 あ、そういえば。会話をしろとは言ったもののどういう話をすればいいかは言ってなかったような気が.....


 一宮はほとんど泣いた顔で助けを求めるように俺の方へと振り返る。

 俺は思わず目を逸らした。


 ごめん、一宮。俺にできることは.....何も無い


「一宮くん?どうしたの?」


 心配そうに宮川が口を開いた。


「顔、真っ赤だよ?何かあったの?」


 宮川は一宮の顔を覗き込むようにして言う。


「な、な、なんでもないです!」


 そう言って一宮は逃げるように宮川の席から離れる。


 結局、一宮は何も出来ずに俺の席へと逃げ帰ってきた。


 まさか、ここまで重症だとは思わなかった。




 しょうがない慰めてやるか。


 これも俺の仕事。

 全く、恋のキューピッドは忙しいな。

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