【4話】男の娘
初投稿です!
俺の高校生活、終わった.........
そう思い、教室へ入った俺であったが、予想していた光景とは随分と違った。
俺に注目が集まりどんちゃん騒ぎ、ということもなく、というかこちらに向かってくる視線というものはひとつとして無かったのだ。
つまり、いつも通りということである。
おかしい.....宮川はあの手紙の正体を掴むため、先に行ったのだ。
教室に入った瞬間、男共が牙を向き俺に殺気を放っていなければおかしいではないか.....
まさか、あの宮川が嘘をついた?
人気者で高嶺の花である、あの宮川かおりが?
ありえない、ありえない、ありえ.........いや、ありえるわ。
嘘くらい余裕でつくか。
現に俺にひとつ嘘をついていた。
そう、例の告白である。
そうだ。宮川かおりという女は平気で意味の無い嘘をつく女であり、そうやって俺の顔を伺い楽しむのだ。
うん。じゃあ、これも嘘だな。
いや、しかしこれは良い嘘だ。
手紙は取られたが俺の高校生活を終わらせたいというわけではないらしい。
なんだかんだ言ったって、結局宮川は良い奴ということだろう。
そういうことにしておこう。
しかし、あの手紙はどうにかしなければならない。
俺にとってあの手紙が爆弾であることは変わりないのだから。
昼休みのことだ。
「ね、ねえ。おはよう」
誰かが誰かに話しかけている。
まあ、俺には関係の無い話だろう。
というか今は昼休みだぞ。「おはよう」は間違いだろう。
そんなことを思いつつも俺は気にせず眠り続ける。
昼休み。ぽかぽか陽気、絶好のお昼寝日和である。
加えて昨日、俺はほとんど眠ることが出来なかったので眠くなるのも当然なのだ。
全て宮川かおりのせいだ。アイツが嘘の告白などしなければ俺は寝不足にならなくて済んだのに.....
「あ、あ、青山くん!!おはよう」
真後ろの席から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
まさか、例の手紙の件か!?
と思い、振り向いたがそれは杞憂に終わる。
「ああ一宮か、おはよう。ってもう昼だぞ」
ついさっき「おはよう」と間違った挨拶をしていたのはどうやら俺の知り合いでその相手は俺だったらしい。
挨拶を返されたのがそんなに嬉しかったのか、満面の笑みをこちらに向けた小動物が一匹。
こいつは一宮 春。愛らしい、守ってあげたくなるような見た目の.........男子生徒である。
いや、本当に男かは分からないよ。確かめたことはないし。
でも学生服を来て学校に登校している以上、男.....なのだろう。
俗に言う男の娘というやつである。
一宮とは席が近いこともあって、入学初日に仲良くなった。
つまり、俺の高校での初めての友達だ。
「ねえ、青山くん。宮川さんのことどう思ってる?」
何の脈絡もなくそんなことを聞いてくる一宮。
なぜそんなことを聞いてくるのかは分からない。
だが、ここは正直に答えよう。
宮川をどう思っているか.....か。
可愛いと思う。それも、とびきりに。
もし、宮川が芸能人だったとしても驚きはしないくらいには......
俺だけじゃない、恐らくこの学校の大半の生徒はそう思っていることだろう。
「可愛いとは思うぞ」
だから俺もそう答える。
「そうだね。可愛いね」
一宮は満足そうな顔をする。
「でも、それだけじゃないよ。頭も良いし、誰にでも優しくするし、裏表もないし.....」
宮川をべた褒めする一宮。
どうやら一宮は宮川のことが好きらしい。
「何よりあの笑顔だよ!」
一宮はドヤ顔で言った。
「笑顔?」
「うん!あの笑顔を向けられて惚れない男子はいないと思うよ!」
「どんな笑顔だよ」
「なんか、こう、すごく幸せになる笑顔かな」
「いや、わからん」
そんな笑顔があるなら一度経験しておきたいところだ。
今のところ宮川からそんな笑顔を感じられたことはないが。
「というか青山くんも宮川さん狙い?分かってはいたつもりだけど.....ライバル多いなぁ」
「別に狙ってない」
「え?ほ、ほんと!?でも、可愛いって.....」
「可愛いとは思うぞ、でもそれだけだ。付き合いたいとは思わない」
「よ、よかったぁ」
安堵の表情を見せる一宮。
「で、でも仲はいいんだよね?もしかして幼なじみとか?」
「良くないし、幼なじみでも無い!」
「え?でも青山くん?今日の朝、宮川さんと一緒に来てなかった?」
うわあ、見られてたあ。まさか、同じクラスのやつが、しかも知り合いがあそこにいたとは.....気づかないとか、俺のバカ!
「見てたのか?」
「うん。バッチリと!」
ブイサインをする一宮。
男とは思えない可愛さである。
「まあ、なんというか同じクラスだしな!一緒に登校するくらい普通じゃない?」
普通なわけあるか!
と自分でツッコミたくなるのを俺は必死に我慢する。
「でも、随分親しげだったような.....」
一宮は怪訝な表情で俺を見つめた。
「まあ、いいや!とりあえず青山くんと宮川さんは友達ってことだね!」
「いや、違う!ただのクラスメイトだ」
「友達でしょ?」
「違う」
「友達だよ!僕知ってるよ」
「お前は何も知らない」
「友達!」
「違う」
「お願い!友達って言って!」
うるうると涙目になる一宮。
なぜ俺と宮川を友達ということにしたいかは分からないが、一宮は随分と必死だ。
「友達.........だよね?」
あざとさ全開の上目遣いである。
ダメだ可愛すぎて直視できない!
そこら辺の女子よりも絶対に可愛い男子がそこにはいた。
というか可愛すぎない!?え、もう無理。もう、無理です。友達でいいです。じゃないと俺が俺でなくなりそうです。
「はい、友達です」
目を逸らしながら俺は言う。
「だよね!」
一宮はとびきりの笑顔を見せた。
「そんな宮川さんの大親友の青山くんに頼みがあります!」
大親友とまでは言ってないはずだが.....
嫌な予感がする。
一宮は真剣に俺を見つめ、そして言った。
「僕の恋のキューピッドになって欲しいんだ!!!」
はぁ、本当に災難である。






