【3話】手紙
初投稿です!
漆黒の髪の美少女に告白された。
笑った顔、言動、行動、全てが天使のように可憐で清楚な少女だった。
しかし、あれが宮川かおりだなんて未だに信じられない。
俺のことを強引に引っ張ってここまで連れてきたこの女と同一人物?
そんなことあるわけない。
どっちが本当の宮川なのだろうか。
分からない。
会ってまだ数日なのだ。分かるはずもない。
しかし、昨日の宮川よりも今の宮川の方がなんだか自然な感じはする。
いや、そんなこと今はどうでもいい。
俺はその告白を断ったのだ。
宮川からされた嘘の告白を。
今は手紙の話だ。
宮川が言うには昨日の告白は突発的なもので何の計画性もないものだったらしい。
つまり、俺に手紙を書いた人間は他にいるということになる。
「私、手紙なんて書いてないよ?何の話?」
「え、違うのか?」
宮川は嘘をついているように思えない。
宮川自身、告白したのは衝動的だといっていたのだから当たり前か。
じゃあ、誰が俺に手紙を?
思い当たる節はない。あるはずもない。
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
「なんでもないってことはないでしょ?手紙がどうしたの?」
気になるようで宮川は聞いてくる。
まあ、隠すこともないか。
「昨日、俺は屋上にいただろ?」
「うん、いたね。誰かの告白でも待ってたのかな?」
「違う。確かに屋上は人気の告白スポットだけど、違う」
「じゃあ、どうして?」
「昨日の朝、俺の下駄箱にこれが入ってた。イタズラだとは思ったんだけど一応.....な」
俺は例のブツを取り出し、掲げる。
「何それ?ラブレター?」
告白繋がりだろうか、宮川はそんなことを言った。
「やっぱりそうじゃん。告白待ってたんじゃん。嘘つく必要ないのに」
「いや、違うから。よく読んで」
宮川は手紙を覗き込む。
「えーと、今日の放課後屋上に来てください待ってます。ってやっぱりラブレター?」
納得したような表情を見せる宮川。
「どこがだ。ラブの要素皆無だろ。相手の名前も書いてないんだぞ」
書いてあるのは場所と時間帯くらいだ。
「あ!それで昨日、君は屋上なんかにいたんだ。なんでだろうとは思ってたけど、まさかラブレターを貰ってたからだったとは.....」
宮川は笑顔で言う。
「いや、だからラブレターではない」
俺は即座に否定した。
「で?青山くんはこの手紙を誰が書いたか知りたいってわけ?」
「まあ、そういう事だ」
本当にそんな相手がいれば.....の話だが。
「女の子の字.....だね」
宮川はぽつりと漏らす
「いや、女の子っぽい字.....かな」
そう、女の子っぽいのだ。
私、女の子ですよ!手紙貰って嬉しいでしょ?みたいな押し付けがましい感じがしてならない。
要するに罠の匂いがプンプンする。
「いかにも女の子が書きましたって感じ」
しばらく宮川はその手紙をにらめっこをしていたかと思ったら
「でも、それで男子だって断定する訳にもいかないよね。こんな字を書く女の子もいっぱいいるんだし。あ、ちなみに私もこういう字を書くんだよ!」
さり気ない女の子アピールをする宮川。
そんなアピールをする必要は宮川にはないと思うのだが.....
「イタズラ.....いや、女の子?うーん、男の子の気もするなあ」
宮川は尚も手紙を凝視する。
男子か女子かそれさえ分かればどうとでもなる気はする。
しかし、どちらだとしてもしっくりはこない。
この学校に入って俺は宮川以外の女子と話した試しはないので俺に手紙を書く女子などいるはずはないのだが.....
かと言って男子が俺に手紙を書くとも思えない。
男子の友達はいるにはいるのだが、俺のモットーは浅く狭くの関係だ。
俺に何かするほど仲良くなった男子は居ないし、嫌がらせされるほど嫌われることをした覚えもない。
一番しっくりくるのは誰かと俺を間違えたということなのだが.....
「うーん。わかんない!」
ついに宮川は音を上げる。
「ごめんね」
「いや、別に宮川が謝ることじゃ.....」
「私、諦めは悪い方なんだよね!」
自信満々の表情で言う宮川。
「別にそこまで相手が知りたいとは思ってないぞ」
「この手紙ちょっと貸して貰うね!」
「え?なんで?」
宮川は俺から手紙を奪う。
「友達に聞けば分かるかも知れないから、ちょっとだけ」
「いや、無理」
「えーいいじゃん少しくらい」
「いや、無理だから」
「なんで?」
「その手紙の一番初めを読んでみてくれ」
宮川は手紙に目を落とす。
「別に?変なこと書いてないけど?」
「書いてるだろ?俺の名前、青山くんへ。って」
「あ、ほんとだ。でもそれくらい我慢するよ」
「いや、俺は我慢できないんだよ!公開処刑だわ!」
そんなことされた日には俺は平穏な高校生活なんて送れなくなるだろう。
宮川は男子からも女子からも好かれているため、両性の友達がいるだろう。
つまり、男子、女子、共に俺が手紙を貰ったという事実が公になるということ。
おそらく女子から手紙を貰った男子生徒として他の男子からは嫉妬三昧。
最悪の高校生活になるだろう。
女子からは.....まあ、いつも空気として扱われるくらいなので別にいい、いつも通りだ。
「そんなに嫌なの?」
「ああ、せめて名前は消してくれ」
「分かった!じゃあ、名前は消さないでおくね!」
いや、どういうことだよ。
悪魔か。
「青山くんじゃあね!」
とびきりの笑顔を俺に向け、宮川は全速力で走っていく。
「ちょ、ちょっと待てーーーーー」
あ、終わったわ。
俺は宮川の後を追おうとするが、追いつけるはずもないと分かっていたので.....諦めた。
宮川かおり、何がしたいんだ。
俺を無理矢理、連れてきたかと思えば今度は無理矢理突き放していったりと嵐のような女だ。
何はともあれ、手紙の件が明らかになるということは俺の高校生活は終わりだろう。
さようなら俺の平穏な高校生活。
そして、こんにちは俺の灰色の高校生活。