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【2話】その理由は?

初投稿です!

「分かった、分かったから!一緒に行くから!その手を離してくれ」


 宮川かおりに手を掴まれたところを他の生徒にでも目撃されたら一巻の終わりだ。

 クラスの全男子の嫉妬の炎によって俺は焼き尽くされる。

 その時点で俺の高校生活は終わってしまうだろう。

 それだけは何としてでも避けなければならない。


「あ、ごめんね」


 そう言って、宮川は素直に俺の手を離し、立ち止まる。


 予想外だ。てっきり、このまま学校まで手を繋いで行くのかと思っていた。


 どんな手段を使ってでも振りほどく準備をしていたのだが.....


 まあ、何はともあれ、これでひと安心だ。


「青山くん」


「なんだ?」


「もしかして、怒ってる?」


 宮川は俺の顔を伺うようにして問う。


「いや、怒ってるというか戸惑ってるというか.....」


「だよね、怒ってるよね。ごめん.....」


 さすがに宮川もこの一連の件を反省しているようだった。


「ちょっと調子に乗りすぎた.....かも」


 しゅんとする宮川。


「いや、別に怒ってはないけど」


「え?ほんと!?怒ってないの?」


 宮川は驚いた様子で俺を見つめる。


「ああ。ただ昨日の宮川とはあまりにも違うから驚いただけだ」


 昨日の宮川とは喋り方や行動などが全くと言っていいほど違うのだ。

 驚くな、という方が無理がある。


「えーそんなことないよ!私はいつも変わらないよ!」


「いや、だいぶ違うだろ」


「そ、そう?」


「喋り方とか行動とか何もかもが違うと思うぞ。むしろ、一致してるところを探す方が楽なくらいだよ」


「そ、そんなに!?」


「そんなに」

 

「そうかなあ?うーん。自分じゃわかんないや」


 そう言って宮川は微笑む。



「でも昨日は緊張したなー」


「昨日?」


「うん。知ってるでしょ?アレだよ」


「ああ、アレか」


アレというのはおそらく嘘の告白のことだろう。

さすがの宮川でも告白ほどの一大イベントでは緊張するようだ。


「まあ、断られるとは思わなかったけどね。青山くんが理想高い系男子だったなんて知らなかったよ!」


 何の話をしているのだろうか。


「別にそんなことないと思うけど」


「理想が高くなかったら私の告白断らないでしょ!?」


「いや、でも本当に理想は高くないぞ」


「でも君、私の告白断ったじゃん!」


 どうやら宮川はずいぶんと自己評価が高いらしい。

 まあ、それは仕方ないか。

 何しろ、この全女子の理想のような外見だ。自信がつかない方がおかしいだろう。


「それは、まあ.....ち、ちょっと待て!?あれは嘘の告白だろ?」


「うん、そうだよ。でも、嘘ってネタばらししたのは君に告白を断られたあとだよ。だから、あの告白が嘘じゃなくても、君は断っていた......ってことにならない?」


「まあ.....そうだな」


「でしょ?」


 ぐうの音も出ない。


「なんで断ったのかな?青山くん」


 とても怖い笑顔で言う宮川。


「なんで告白断っちゃったの?ねえ、なんでなの?教えてよー」


 宮川は駄々っ子のように俺の体を揺すり問い詰める。


「ねえ!青山くん!なんで~」


「それは」


「それは?」


 せかすように俺の言葉を復唱する宮川。


「それは、まあ、目立ちたくないから.....だ」


 沈黙。静寂。森閑。


 宮川は何も喋らない。

 よっぽど驚いたのだろう、しばらく宮川は時が止まったように固まっていた。


「え、嘘!?そ、それだけで私の告白を断ったの!?」


 宮川は少し遅れて、驚きを言葉にする。


「そうだ」


「ほんとに?」


「ああ」


「ほんとにほんと?」


「うん」


 宮川は何度も確認するが、俺の答えが覆ることはない。

 何しろこれは本音であり、嘘、偽りのない事実なのだから。


「ちょっ、ちょっと青山くん.....目、見えてる?私だよ。告白したのは君にとっては高嶺の花であり、黒髪清楚美少女のこの私、宮川かおりなんだよ?」


 言いつつ宮川は、上目遣いで俺を見る。

 あざとい、とてもあざとい。

 こう見ると確かに可愛い。宮川が芸能人だとしても驚かないくらいには可愛いのだ。


 というか、いくらなんでも自己評価高すぎないか?


 しかし、ひとつ言いたいことがある。いや、言わせてもらおう。


「清楚ではないだろ」


「清楚だよ!これ以上ないくらい清楚だよ?私」


 宮川は清楚っぽいポーズを決める。

 まあ、確かにそれで黙っていたら清楚っぽいけど.....


「とにかく!俺の中では目立たず普通に生活するってことが最優先事項なんだよ!」


「そ、そうか、わかった!つまり青山くんは普通オタクってことか!」


 なんだよ、普通オタクって。


「あーもう、それでいいよ」


 めんどくさいので同意しておく。


「青山くん.....面白いね?どう?私とほんとに付き合わない?」


「からかうのはやめてくれ」


「あはは、バレたか」


 いや、バレるだろ。そんな見え見えの嘘告白。

 何回俺に嘘の告白するつもりだよ。


「なあ、俺からもひとつ質問していいか?」


 ひとつ気になることがあったので、俺は言った。


「うんいいよ!なんでも聞いて。あ、でもスリーサイズはやめてよ」


 聞くか、そんなこと。聞いたらセクハラになる。


「宮川はなんで嘘の告白なんてしたんだ?メリットなんてないように思うけど.....」


「ええと、それはねー、うん!好奇心というか、やってみたかったというか.....ね?」


「ん?」


 どういうことだろう?

 好奇心?やってみたかった?

 意味不明だ。


「えー、つまりね。青山くんに告白したのは、その場の勢いでって感じなの。」


「勢い?」


「衝動的にって、言うのかな?なんだか我慢出来なくなっちゃって。やっちゃった!」


「やっちゃった!ってそんな軽い乗りで人生の一大イベントを消費するな」


「ちょうどいいところに君がいたからね。あ、これは告白できるって思ってさ!なんで君があんな所にいたのかは知らないけど」


「いや、それは手紙を貰って.....」


「手紙?」


 そうだ。手紙だ。

 昨日、俺が嘘の告白をされた時間はいつもならとっくに帰っている時間だった。

 にもかかわらず俺があの時間にあの場所にいたのにはもちろん理由がある。











 昨日の朝のことだ。

 俺はいつも通りに起き、いつも通りに家を出て学校へと行った。

 今日も平穏な生活を過ごしたいなあなんて思っていた。


 しかし、そんなことを思った日に限って逆のことが起きるのだ。


 学校に着くまでは何事もなかった、いつもと同じ日常だった。


 学校に着いた直後のことだ。

 俺は靴を入れようと自分の靴箱を開ける。


 そのとき俺の視界に何かが写った。

 四角い、薄っぺらい、物体だった。

 とてつもない存在感を放つ、折りたたまれた紙だ。


 そう、手紙である。


 ソレを認識した俺は思わず靴箱を閉める。

 俺には縁もゆかりも無いものだったからだ。


 見間違いだろう。

 そう思い、俺はおそるおそると再度靴箱を開ける。


 同じ光景が広がっていた。

 どうやら見間違いではなかったらしい。


 しかし、まだ俺のものと決まったわけじゃない。

 誰かが間違えて入れたのだろう。

 手紙を入れる靴箱を間違えるなんてとんだドジっ子さんがいたもんだ。


「青山くんへ」


 思いっきり俺の名字が表紙に書いてあった。


 俺とは違う青山くんかな?


 と現実逃避するがおそらくその可能性は限りなく低いだろう。


 何しろ、青山という苗字は意外と珍しいのだ。学校に2人はいないだろう。


 つまりこの「青山くん」というのは俺のことで.....


 俺は覚悟を決め、手紙を開く。


「青山くんへ

 今日の放課後、話があるので屋上に来てください。待ってます!」


 The・女子という丸っこい文字でそう書いてあった。

 俺は安堵する。

 好きです!だとか、付き合ってください!だとか決定的なセリフは書いていない。

 書いてあるのは、話があるということと待ち合わせ場所、そして時間帯だけだ。

 まあ、書いた人物の名前も書いていないが.....


 何かのイタズラだろうか?

 出来ればイタズラであって欲しい。


 その後、俺はいつも通りの授業を受け、いつも通りに過ごした。

 しかし、頭の中はいつもとは違い、放課後のことしか考えられなかった。



 そして放課後になり、俺は告白ではないことを祈り屋上へと行く。


 屋上には誰もいなかった。

 いつもなら、何人かは生徒がいるのにも関わらず今日に限って誰もいなかった。

 好都合だ。

 それから俺はソワソワしながら誰かが来るのをひたすらに待つことにした。




 10分か15分か、それくらいの時間が経ったが誰も来る気配はない。


 イタズラだったのだろう。

 そう思い、俺が帰ろうとしていたときだ。


 ガチャンと屋上の扉を開ける音がした。

 誰だろうか?

 思って、俺は扉の方を見る。



 漆黒の黒髪を持つ美少女だった。

 彼女はまるで天使のような透き通った眼で俺を見据える。


 彼女は歩き出す。


 黒色の髪をなびかせながらこちらに近づいてくる。


 そして俺の目の前に立ち彼女はこう言ったのだ。


「青山くん、好きです!付き合ってください」

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