壊れた映写機
女王は猫足の肘掛け椅子に座り、小さく溜息を吐きながら気怠そうに肘を付くと、投げ出す様に足を組んだ。
まるでノワール映画のワンシーンみたいに見事な、エゴイスティックで退廃的なディレッタント。
「心が動かなければ浮気じゃない」なんて嘯いて、妖艶な笑みを浮かべる。
その「嘘」が女王を人形に貶めている事に気付かない訳がないのに。
本当は誰よりも「鎖」を欲しているというのに、女王は細く立ち上る紫煙を纏って涙の軌跡を隠す。
胸の奥では、熱病のように囁かれる愛に溺れて、跡形も無い程に溶けてしまいたいと、微かに揺れる吐息で願いながら。
『心臓まで届く位に深くまで、全部抉って晒して受け止めて、私に殺される覚悟が出来たら、大人しく首輪を着けられてあげる』
そんな譫言の本当の意味を理解出来る奴は、きっと僕以外に誰もいない。
だから僕は、誰にでも愛されて、そして誰にも愛されなかった女王の優しい寂しさごと抱きしめよう。
哀しい奴隷の首を刎ね、その唇に真っ赤な薔薇を添えて宣言。
「いただきます」