第95話 ストレート勝負②
8番バッターの川本に対して、黒山は鶴田のサイン通り外角低めにストレートを投げようとするも、真ん中よりの甘いコースに向かっていた。
「カキーン!!」
打球はセンター前ヒットとなった。
(さっきからコントロールが甘くなってるな。でもあと1人だ。なんとか堪えてくれ黒山)
9番バッターの水島に対して、鶴田はまた外角低めのサインを出すも、今度は大きく外に外れるボール球となった。
(外角は投げづらいのか? ならここならどうだ?)
鶴田は内角にサインを出すも、今度は内に大きく外れてしまう。
「痛て!」
球は水島の太ももを直撃した。
「デッドボール!」
(やっぱり思った通りや。星田にデッドボールを出して以降、ストレートしか投げてへん。多分マメでも潰したんやろな。そして頼みのストレートすらコントロールがつかんくなっとる。そして次のバッターは三浦。チーム1の選球眼をもつ三浦なら、甘いコースにきたストレートを捉えるか、しっかり四球を選択できるはずや。これでサヨナラ。うちの勝ちで決まりや)
鶴田はタイムをとると、さすがに限界がきている黒山を交代させようとしたが、その前に黒山の方から鶴田に話しかけてきた。
「鶴田、お願いがあるんだ」
「ああわかった。今日のお前は大阪西蔭打線相手に11回も無失点に抑えてほんと良くやったよ。黒山、お疲れ様。それじゃあ監督に言って交代してもらおうか」
「いやいや交代しねえよ!」
「えっ? じゃあお願いってなんだよ?」
「次からのサイン、全部ど真ん中に構えてくれ。デッドボールやパスボールだけは避けたいからな」
「それはいいけど、本当に投げられるのか?」
「満塁のピンチにエースがマウンドを譲るなんてありえねえだろ。それに今なら、ワインドアップで本気のストレートが投げられる」
この日の黒山はまだ、ワインドアップでの投球を1度も披露していなかった。
「もうこうなったら当たって砕けろだ。黒山、後悔のないように全力で投げてくれ」
「おう!」




