第93話 エースの資質
(ようやった浩二。あの1年を完璧に抑えおったで。これでもう怖いもんなしや。交代したばかりの万場兄弟相手に、船町北が得点できる可能性は0。一方でこちらが相手する黒山君はすでに100球越えでいつ体力の限界がきてもおかしゅうない。いや、体力だけやなくて精神的にも限界がきとるはずや。味方の得点が期待できないこの状況で投げるんは体力以上にメンタルが削られる。さあ黒山君、そろそろ楽になりや)
しかし、9回裏、そして10回裏の攻撃でも、大阪西蔭打線は黒山を打ち崩すどころかヒットすら打てない状況が続いていた。
(一体何を手こずっとるんや。今対戦してるピッチャーの浩一はともかく、スタメンで出とる奴らは何度も黒山の球を見とるはずやろ)
「いい加減打たんかい!」
「すんません!」
(あっ、つい心の声が漏れてもうた。こうなったら後戻りはできひんな)
「ボロボロのピッチャー1人相手にいつまで手こずっとんねん! 特にスタメンで出とる奴ら全員。すでに何度も黒山の球を見とるんやからさっさと対策しーや。天下の大阪西蔭打線が聞いて呆れるわ」
「すんません! ただ監督、ボロボロのピッチャー言うんは訂正してください」
「なんでや!」
「だってあいつ、対戦する度に元気になっとるんです」
「んな訳あるかいな。あいつはすでに150球近くも投げとるんやで。もう限界の……」
「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」
「とにかく、変な言い訳しとらんでさっさと打ち崩してこい!」
「はい!」
11回裏。キャッチャーの鶴田は、回を追うごとに進化する黒山の球を受けながら、しみじみと感じていた。
(体力的にも精神的にも不利な状況に追い込まれれば追い込まれるほど力を発揮する黒山……まさにエースの資質。これは白田にも水谷にもない資質だ。監督が黒山をエースに指名したのも頷ける。今の黒山なら、プロのチーム相手でも打たれる気がしないぜ)
この回の先頭の5番バッター星田に対して、黒山はストレートとカーブで2ストライクを奪っていた。
(よし追い込んだ。最後はカットボールで三振だ。いけ黒山!)
しかし、黒山の投じたカットボールは大きくコントロールが乱れ、星田の太ももを直撃した。
「デッドボール!」
(おいおい黒山、せっかく追いこんだのにしっかりしてくれよ)
そう思いながら地面に転がる球を拾った鶴田は、慌ててタイムをかけると黒山の元に向かった。
「おい黒山!」
「悪い悪い。ちょっと手が滑っちゃってさ」
「嘘をつくな! これは何だ!」
そう言って鶴田が突き出した球には、真っ赤な血が付いていた。
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船町北 00000000000
大阪西蔭 0000000000
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