第89話 恐怖のサイドスロー①
8回の表。今まで先発していたエースの千石が違うピッチャーに交代したのを見て、船町北ナインの士気は俄然高まっていた。
(ラッキー! 正直千石の球は打てる気がしなかったからな。これでやっと俺にもヒットを打てるチャンスが巡ってきたぞ)
この回の先頭バッター福山は、やる気満々で打席に向かった。
(このピッチャー、甲子園の映像には出てなかったし初めて見るな。身長でけえし腕もなげーし体格でいうと三街道の細田にそっくりだな。さて、どんな球を投げてくるんだ? まっ、千石や百瀬の球を経験した後なら、どんな球がきても驚かないだろうがな)
そんな福山に対する初球。細田似のその投手は、三塁側のピッチャーズプレートギリギリの位置から、長い右腕をめいっぱい横に伸ばすサイドスローのフォームから球を投じた。
(うわっ! ぶつかる!)
右バッターの福山は、自分に向かってくる球に恐怖を感じて体を思いっきり後ろに反らした。
「ストライク!」
(えっ! 今のがストライク?)
福山が体を反らして球から目を離した瞬間、球は鋭い大きな曲がりをみせ内角ギリギリのストライクゾーンを通過していた。
2球目。細田似投手の投じた球は、またもや福山の体に向かっていた。
(うわっ! またかよ!)
福山はまた体を反らして避けようとしながらも、今度は球から目を離さずにいた。
「ストライク!」
(すげー変化量のスライダーだな。ただでさえ角度がエグイ上にこんなスライダーを組み合わせて投げられたらたまったもんじゃねえよ。でも、ストライクゾーンを通過してるなら打てないはずはないよな。恐怖心に打ち勝って思い切って振るしかない!)
3球目。細田似投手が投じた球は、福山の顔面付近に向かっていた。
(うわっ! 殺される!)
福山は命の危険を感じ反射的にしゃがみこんだが、球はそこから大きく斜め下に曲がってストライクゾーンの内角高めを通過した。
「ストライク! バッターアウト!」
(最後の球はカーブかな。それにしても福山の奴、めちゃくちゃダサかったな。内角球を怖がってるようじゃ、野球はできないぜ)
そう心の中で福山をバカにしながら打席に上がった6番バッターの新垣だったが、福山と同じような形であっさりと三振に倒れた。
(福山のビビりっぷりを見た時は笑っちゃったけど、その様子を見ていたはずの新垣までこのザマとはさすがに笑えないな。2人共しっかりしてくれよ)
そう心の中で2人に説教をしながら打席に上がった7番バッターの尾崎だったが、前の2人以上のビビりっぷりをみせながらあえなく三振に倒れた。
(右の横投げからのスライダーやカーブなら白田や水谷の球で慣れているはずなのに、それでもあの怖がりようとは。相当角度や変化がすごいんだろうな。この調子だと右バッターに期待するのは難しそうだな。まっ、幸い次の回では左バッターの星と安達に打席が回る。まだまだチャンスはあるぞ)
(左バッターならチャンスはある、なーんて向こうの監督さんは今頃考えとるんやろうな。そんな甘っちょろい考えが崩れ去る姿を拝めるのが、今から楽しみやわ)
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船町北 00000000
大阪西蔭 0000000
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