第88話 黒山の癖②
続く7番バッターで黒山の癖を見抜いた張本人でもある遠藤は、星田と佐々木の打席を見てこんなことを考えていた。
(2人共アホやな。せっかく俺が癖を見抜いてやったいうのに全然生かしきれてないやないか。カットボールにしてもストレートにしても、こいつが投げる球は一級品や。だが唯一、カーブだけは平凡そのもの。狙うならカーブ一択やろ)
初球、外角にストレート。
「ストライク!」
2球目、内角にカットボール。
「ボール!」
3球目、外角高めにカットボール。
「ストライク!」
(追い込まれてもうたけど、そろそろカーブくるやろ。それまではなんとかカットで粘るで)
その時、突然キャッチャーの鶴田が声を上げた。
「すみません、タイムお願いします!」
(やばい、もしかして癖のこと気付かれたか)
しかし、鶴田がマウンドに向かった後、黒山がしゃがんで靴紐を結び始めたのを見て、遠藤は安堵した。
(なんや、靴紐がほどけてたのを教えただけか)
黒山が靴紐を結び終わったところで、試合は再開された。
4球目、黒山は握りを確認してから投球を始めた。
(またカットボールかいな。とりあえずボール球なら見逃して、ストライクになりそうならカットや)
黒山の投じた球は、ど真ん中へ向かっていた。
(ここから曲がってくれば内角ギリギリ入りそうやし、カットしとくか)
しかし、球は曲がることなくそのままど真ん中に構えた鶴田のミットに収まった。
「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」
(はあ? なんでストレートがくるねん!)
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遠藤が抑えられる約1分前。
「すみません、タイムお願いします!」
鶴田はマウンドに向かうとすぐに黒山に指示を出した。
「靴紐結び直せ!」
「えっ! 別にほどけてないけど……」
「いいから結び直せ!」
「あっ、ああ」
「いいか、気付いてないと思うけどカットボールを投げる前だけ握りを確認するのが癖になってるぞ。だから次からは全投球で握りを確認してから投げてくれ」
「わかった。だけどなんでわざわざ靴紐を結び直さなきゃならないんだ?」
「相手にバレねえためだよ。少しは頭使えよ」
「ああなるほど。了解でーす」
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