第87話 黒山の癖①
安達の内野安打によりノーアウトのランナーが出た船町北打線だったが、続くバッター達はあっさりと千石に抑えられ、7回表も無失点に終わった。
そして7回裏、大阪西蔭の攻撃。
4回からカットボールを投げ始めた黒山に完璧に抑えられていた大阪西蔭打線だったが、前の回に黒山の投球をベンチから見ていたファーストの遠藤はある黒山の癖に気付き、その情報をチーム全員に共有していた。
『黒山はカットボールを投げる直前、握りを確認する癖がある』
(ようし、ほなカットボールに狙いを絞って打ったるか)
この回の先頭バッター5番星田は、カットボール狙いで打席に入った。
初球、黒山は投げる直前、グラブで隠してある左手の握りにちらりと目を向けてから投球動作を始めた。
(カットボール、いきなりくるで!)
黒山は星田の予想通りのカットボールを外角低めに投じた。
「カーン!!」
星田の打球は芯の外れた当たりでボテボテのショートゴロに終わった。
(くそ! わかってても捉えきれへんかった)
続く6番バッターの佐々木は、打ち取られた星田の様子を見ながらこんなことを考えていた。
(アホやなあ。わざわざ1番難しいカットボールを狙いにいくやなんて。賢い俺は、ストレート狙い一択や。千石のストレートを見慣れてる俺らならそっちの方が打ちやすいに決まっとるやろ)
初球、黒山は投げる直前、また握りを確認してから投球を始めた。
(よし、見逃しや)
「ストライク!」
2球目、黒山は握りを確認しないまま投球を始めた。
(例えカーブがきたとしてもまだ1球余裕がある。ストライクゾーンにきたらとりあえずフルスイングや)
黒山の投じた球は、内角へのストレートだった。
「カーン!!」
佐々木の打球はセカンドフライに終わった。
(くそ! 1、2打席目の時と比べて球速もキレも増しとるやないか)
1か月前に監督から正式にエースを指名された黒山は、エースとして先発で最後まで投げ切る試合では、ペース配分を意識して序盤はコントロール重視で抑え気味に投げることを意識し、中盤から終盤にかけて徐々にギアを上げていくという投球スタイルを確立させていた。
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