第86話 安達弾VS千石聖人④
「カキーン!!!!」
安達の打球はライト方向への特大ファールとなった。
(くそっ、もうちょっとだったのに)
(内角ギリギリの厳しいコースやったおかげで何とか助かったけど、ちょっとでも甘いコースにいってたら完全に入っとったな。前の打席までは全然打たれる雰囲気もなかったのに、今の打球は完全に高速横スラを見極められていた。さっきまでひよっ子や思うとったのに、今はすっかり親鳥の風格や。こいつを抑えるには、ギアを最大まで上げなあかんな)
千石は今日の試合、というより練習試合全般で本気の力で投げることはほとんどない。なぜなら8割程度の力を出せば十分抑えることができるからだ。一発勝負の甲子園ならともかく、練習試合で無駄に本気を出して怪我をするリスクを高める必要はない。そんな考えを持つ千石が、珍しく本気で投げることを決断した。安達の特大ファールは、千石にとってそれだけのインパクトを与えるものだった。
5球目、千石は外角高めにストレートを投じた。
(今度こそ決めてやる!)
「カーン!」
安達のスイングはかろうじてボールの下をかすり、ファールボールとなった。
(球速が上がった! ていうか今の球、ピッチングマシンのストレートよりも速く感じたぞ。まさかの160キロ越え? いやいやさすがにそれはないよな。ということはスピード以上にキレが増したってことか。千石さん、今までまだ全力じゃなかったんだな。さすがは高校ナンバー1ピッチャー。面白くなってきたぞ)
(今の球を当ててくるんか。これでまだ1年……末恐ろしい奴やな。ここは先輩として、きっちり若い芽を潰しとかなあかんな)
6球目、千石の投じた高速縦スラは、曲がりが大きすぎて地面にワンバンするボール球となった。
(やっべ。久しぶりに本気で投げたから調節できへんかったな)
(見送った、というより手が出せなかった。なんて鋭い変化をするんだ。変化量をピッチングマシンのフォーク中から強に訂正しておこう。ということは、横スラ系の球も変化量が増えることを想定しておいた方がよさそうだな)
7球目、外に外れたコースから中に入ってくる高速横スラに、安達はフルスイングした。
「カーン!!」
(ガーン……横スラは変化量変わらないんかい!)
安達が想定していたほど高速横スラの変化量は少なかった。しかしその分予測よりも球速が速かったため若干振り遅れた形でバットの先に当たり、ボテボテのサードゴロとなった。しかし、大阪西蔭の守備は安達の長打を警戒して下がり気味に守っていたこともありサードの処理が遅れた。
「セーフ!」
完全に打ち取った当たりだったものの、安達の打球は運よく内野安打となった。
(なんやスッキリせえへん結果になってもうたな。まあええわ。安達君、この勝負の続きは甲子園でやろうや。まっ、そっちが甲子園まで勝ち上がることができればの話やけどな)
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船町北 000000
大阪西蔭 000000
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