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安達弾~打率2割の1番バッター~  作者: 林一
第10章 練習試合2試合目 船町北VS大阪西蔭 
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第80話 買収

 黒山と水谷は急いで弁当を掻き込むと、まだベンチで昼食を食べている途中の百瀬の元に向かった。


「百瀬さん、食事中にいきなり失礼ですけど良かったら俺達にカットボールの投げ方教えてもらえませんか?」


 突然の申し出に、百瀬は不機嫌そうに答えた。


「自分らホンマ失礼やで。藪から棒にいきなりなんやねん。あのカットボールはな、色々と試行錯誤を重ねた末にやっとものにした俺にとっての大事な宝物なんや。それを今日あったばかりの他校の投手にそう易々と教えてやる道理はないやろ」


「もちろん、タダでとは言いません。もしも教えていただけたら、お礼にこれを差し上げます」


 そう言って黒山が差し出したのは、カラフルな7色のカラーが特徴的なタオルだった。


「嘘やろ! もしかしてこれ、先月幕張メッセでやった虹スぺの……」


「そうです。アイドルグループ虹色スペードXが幕張メッセでやったライブの会場限定タオル。しかもまだ未使用の新品ですよ」


「しゃーないなあ。いっちょ教えたるわ」


(よし、作戦成功だ!)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 


 大阪に出発する前日、黒山が家のリビングで百瀬の投球映像を見ていると、たまたま通りかかった黒山の大学生の兄があることに気が付いた。


「このピッチャーのグラブ、虹色の刺繍がしてある。こいつは間違いなく虹スぺのファンだな。おい聡太、この学校って明日大阪で練習試合する相手だよな?」


「そうだけど?」


「じゃあさ、お前に虹スぺのタオルあげるからそれをあのピッチャーにプレゼントしてやってくれよ」


「別にいいけど、何でわざわざそんなことを?」


「虹スぺってほとんど関東でしか活動してないからさ、関西のファンは可哀相な境遇なんだよ。そんな中、健気に虹スぺの応援を続けるあいつを見てると何かしてあげたくなちゃってさ。あいつにあげるタオルはこの前の幕張メッセのライブで保存用に買った奴だから、このまま押し入れに眠らせとくぐらいならあいつにプレゼントしてやった方がタオルも喜ぶだろ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(タオルも喜ぶとか何言ってんだこいつって思ってたけど、兄貴のおかげで百瀬にカットボールを教えてもらえることになったよ。ありがとう兄貴! そしてありがとう虹スぺ!)


 百瀬は半分近く残っていた昼食を一気に搔き込むと、ブルペンに移動して2人にカットボールの投げ方を熱心に指導し始めた。時間にするとほんの15分程度だったが、そのわずかな時間ですでに黒山は百瀬そっくりのカットボールを習得しつつあった。


(やっぱり思った通りだ。今年の春のセンバツで百瀬が投げてる映像を見た時にピンときたんだ。俺のフォームに似てるって。だからあのカットボールもすんなり習得できるんじゃないかと踏んでいたが、まさかここまで相性がいいとはな)


 そして水谷の方も、黒山の完成度までは及ばないものの確かな手応えを掴んでいた。


(俺のオーバーからの投球は元々黒山のフォームを参考にしたものだからな。今は変則的なフォームに変わったけど、最終的に投げる瞬間のフォームは今でもほぼ変わらない。つまり、黒山が投げられるってことは俺でも投げられるはずだ)


 虹スぺのタオルにつられてついカットボールを2人に教えてしまった百瀬は、今更ながら少し後悔していた。


(どうせ投げられないやろうと高を括っとったけど、まさかこんなに飲み込みが早いとはな。もしかして俺、かなりまずいことしちゃったか? でもまあ千葉の高校やし、きっとまた優勝は龍谷やから甲子園で当たることはまずあらへんし大丈夫だよな? うん。きっと大丈夫や)


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