第74話 水谷の課題③
7回裏、そして8回表と両ピッチャーは3人でピシャリと抑えた。そして8回裏。9回表に船町北打線が同点に追いつくか逆転でもしない限り、水谷が投げるのはこの回が最後となる。
この回の先頭は、6番バッターの遠藤。水谷との初対決ではたったの3球で三振に倒れている。
(俺も含めこのままじゃこいつにノーヒットどころか出塁すらできずに終わってまう。これじゃあ天下の大阪西蔭打線の面目丸つぶれや。幸いこの回からみんな2巡目に入る。各々対策もできとるはずや。この回、最低でも2点、いや3点は奪ったる)
初球、アンダーからの内角低めにシンカー。その球を遠藤はいきなり打ちにいった。
「カキーン!!」
3塁線に鋭い当たりを飛ばすもギリギリ切れてファール。
(このピッチャー、確かにコントロールはええし球種も豊富やけど基本球速が遅いからぎりぎりまで見てから振りにいってもなんとか対応できる)
2球目、外角低めにオーバーからのストレート。見逃しストライク。
(唯一の例外がこのストレートや。この球は思い切って捨てる)
3球目、アンダーからの外に逃げていくスライダー。遠藤は打ちにいこうとするもぎりぎり見極めてバットを止めた。
「ボール」
(よし、いける。オーバーからのストレートがストライクゾーンにくる前にヒットを打つかあと3つボール球を見逃せば出塁できるで)
4球目、アンダーからの外に逃げていくカーブ。遠藤はこれも見極めてバットを止める。
「ボール」
5球目、アンダーから放たれたその球は遠藤の体に当たりそうな軌道から内角高めギリギリのコースに曲がっていくスライダーだった。並みのバッターなら思わず仰け反りそうになる球だが、遠藤は最後まで目を離さず冷静に球の行方を追いながら打ちにいった。
「カキーン!!!」
3塁線に鋭い打球が飛んでいく。その打球は初球を打った時の打球と似ていたが、今度の打球は切れずにフェアとなった。
(今の球、我ながらよう打ったわー。前のピッチャーもそうやけど、昔の俺なら右ピッチャーの内角ギリギリに投げてくるスライダーとか怖くて打ちにいけんかったからな。これも一重に、万場兄弟がうちにきてくれたおかげやな)
ノーアウトランナー1塁。水谷にとってはこの日初めてとなるランナーを許してしまった。
---------------------------------------------------------------
小説の続きが気になるという方は、ブックマークや
下にある☆☆☆☆☆から作品への応援をいただけたら嬉しいです。




