第72話 水谷の課題②
6回の裏。この回の先頭バッターは9番の百瀬。
(百瀬はバッターとしては大したことなさそうだし、アンダーだけで抑えにいくか。オーバーの持ち球がストレートとチェンジアップしかないことはできるだけバレたくないからな)
水谷は鶴田のサイン通りアンダーからの球しか投げなかったが、前の回でのオーバースローを織り交ぜた投球が百瀬の頭の中に強烈に残っていたため、百瀬はこの打席では投げてこないオーバーからの投球を嫌でも警戒させられる状態だった。
「ストライク! バッターアウト!」
結局百瀬は、最後までオーバーの幻影に惑わされる形で三振に打ち取られた。
(結局オーバー投げへんのかい! 勝手に警戒して勝手に自滅してもうたわ)
1番バッターの三浦は、あえて何も考えずに打席に入った。
(オーバーかアンダーか、余計なことを考えれば考えるほどドツボに嵌ってしまう。ここは素直にきた球を打ちにいく。それだけや)
初球、オーバーからのストレート。外角低めに決まり見逃しのストライク。
(途中まで完全にアンダーのフォームやったやんけ。あそこからオーバーがくるんかい。外から見るよりも打席から見た方がより違いがわかりにくくてやっかいやな)
2球目、アンダーからのシュート。内角のギリギリに決まり見逃しストライク。
(なかなか厳しいコースに投げてきよるな。手が出えへんかった。ていうかもう追い込まれてもうた。ここからはくさい球でも全部打ちにいかんとあかんな)
3球目、外角から外に外れるシンカー。三浦はそれを打ちにいってしまい空振りの三振に終わった。
(完全な釣り球に手を出してもうたな。ていうかこの打席の最初、あえて何も考えへんとか自分で言うとったけどめちゃくちゃ考えてさせられてるやん。あかんで俺)
2番バッターの田所は、水谷のある弱点に気が付いていた。
(このピッチャー、オーバーの時はストレートしか投げてへんな。ほなその球に狙いを絞ってみるか)
初球、アンダーからの外角低めにスライダー。見逃しストライク。
2球目、アンダーからの内角低めにシンカー。低めに外れてボール。
3球目、アンダーからの内角高めにシュート。高めに外れてボール。
4球目、アンダーからの外角低めにカーブ。見逃しストライク。
(全然打ちにこないな。もしかしてオーバーからの球を待ってるのか。なら、このままアンダーで攻める)
5球目、アンダーからの内角高めにストレート。田所はカットでしのぐ。
6球目、アンダーからの内角にスライダー。田所はこの球もカットでしのいだ。
(しつこいな。そこまでオーバーの球を打ちたいなら、お望み通り投げさせてやるよ)
7球目、田所が待ちに待ったオーバーからの球が外角の高めにきた。
(待ってました!)
意気揚々と打ちにいった田所だったが、バットは無情にも空を切った。
(ストレートじゃなくてチェンジアップだけどな)
「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」
123456789
船町北 000000
大阪西蔭 400000
---------------------------------------------------------------
小説の続きが気になるという方は、ブックマークや
下にある☆☆☆☆☆から作品への応援をいただけたら嬉しいです。




