第70話 水谷の課題①
5回の裏。この回から登板した水谷は、6番バッターの遠藤をたったの3球で空振り三振に抑えていた。
(なんやこいつ! アンダースローの技巧派かと思たらいきなりオーバースローからの速球を投げてきおった。でもネタがわかれば対応できるはずや。次は打つで)
7番バッターの川本は、冷静に水谷を分析しようとしていた。
(随分けったいなピッチャーやな。とりあえず追い込まれるまでは相手のフォームをじっくり観察しとこか)
初球、アンダーからのカーブ。内角低めのぎりぎりに決まりストライク。
2球目、アンダーからのシンカー。外からぎりぎり外角低めへと決まりストライク。
(この2球だけ見たらコントロールのいい典型的な技巧派アンダースローピッチャーなんやけど、いつオーバーからの投球がくるかもわからへんから気が抜けんな)
3球目、アンダーからの外角の外に逃げていくスライダー。川本は打ちにいった腕をなんとか伸ばしてその球をカットした。
(あっぶねー。ボール球に手を出して三振するところやったわ。オーバーを警戒するせいで判断がほんの一瞬だけ遅れがちになるな。気をつけへんと)
4球目、投球動作を始める水谷を途中まで見て、川本はある確信をした。
(ここまで全く動きが同じや。次もアンダーでくる!)
しかし、その確信は外れた。外角の高めにきたストレートはオーバースローから放たれたものだった。川本は慌ててバットを出すも、当てることができなかった。
「ストライク! バッターアウト!」
(直前まで全くフォームが同じやから完全に騙されたわ。こいつを打つのはなかなか骨が折れそうやで)
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1か月前の龍谷千葉戦のあと、監督に指摘されたアンダーとオーバーのフォームの違いでどちらがくるか早い段階でバレてしまうという課題を克服するため、水谷はフォームの改善に取り組むことにした。
(長年投げてきたアンダーのフォームを今更いじるのはリスクが大きすぎる。ここはオーバーのフォームをアンダーよりに改善するしかないな)
途中まではアンダーと全く同じフォームで、そして投げる直前にオーバーに切り替えるという一般的なオーバースローの選手とは全く違う変則的なフォームを、水谷はわずか1週間で作り上げた。しかし、元々あまり良くなかったコントロールがさらに悪くなったり球速が落ちるなど悪影響が多く、練習試合でも打たれたり四球を出すことが多かった。
しかし、新しいフォームにしてから2週間もするとコントールは徐々に改善され、球速も以前と同じ140キロ前後まで戻り始める。その後登板した練習試合2試合では、合計8イニングを投げ無失点に抑えるなど水谷は新しいフォームに手応えを感じ始めていた。
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8番バッターの水島も、アンダーかオーバーか直前まで区別がつかない水谷の投球スタイルに幻惑されてあえなく空振り三振。水谷は登板してから最初の3人を全て空振りの三振で打ち取るという完璧な立ち上がりを見せた。
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船町北 00000
大阪西蔭 40000
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