第65話 百瀬剛三③
4回の表。先頭バッターの星は、前の打席で3回も百瀬のカットボールを見ていたため、だいたいの球筋は把握していた。
(今度こそ打ってやる)
星に対する初球は、外角低めにまたもやカットボールがきたが、星はバットが出なかった。
「ストライク!」
(ダメだ。あんなに速くてキレのいいカットボールをこんな厳しいコースに決められたらわかってても打てない。甘いコースにくるのを待つか)
2球目、百瀬の投じた球は内角へと向かっていく。ここからカットの変化をするとデッドボールになりそうな球だった。
(危ない!)
星は体を反らして避けようとするが、百瀬の投じた球はそのまま変化することはなかった。
「ストライク!」
(ここにきて普通のストレートか。カットの残像がこびりついて思わず避けてしまった。ダメだ。打てる気がしない。かくなる上は……)
3球目、百瀬が球を投じる瞬間、星はバントの構えに切り替えた。百瀬が投じた球は不運にもバントをするのが1番難しいとされる内角高めへのカットボールだった。
「カーン!」
バントした球は後方に打ち上げてしまい、スリーバント失敗となった。
(クソ―全然ダメだった。でもバットには何とか当てられた。まあバントだけど。次こそはヒット、いやせめて前に打球を飛ばすぞ)
2番バッターの白田は、事前にある作戦を立てていた。
(さっきの回、俺はフォークやフォーク以外の球に狙い球を絞られた結果ヒットを何本も打たれた。今度はこっちがやり返す番だ。あのカットボールは正直右バッターの俺にとってかなり打ちづらい。だからストレート1本に狙いを絞る。これで百瀬を攻略してやる)
初球、内角高めにカットボール。見逃しストライク。
2球目、内角低めにカットボール。見逃しストライク。
(焦るな焦るな。さすがに3球も連続でカットボールは投げてこないだろう。次こそは打つ)
3球目、百瀬の球は外角に向かっていた。
(一か八かだ!)
白田が振ったバットは、無常にも空を切った。
「ストライク! バッターアウト!」
(3球連続でカットボールかよ。くそー完全に作戦が裏目に出たか)
3番の水谷は、前の打席で見た百瀬のカットボールを思い浮かべてはその球をホームランにするイメージトレーニングを繰り返していた。
(俺は打てる。俺は打てる。俺は打てる……)
初球、外角にきたカットボールに対して、水谷は待ってましたとイメージトレーニング通りのフルスイングで迎え撃った。
「カキーン!!!!」
気持ちのいい打球が響き渡ったのは、水谷の脳内だけの幻だった。
「カーン!!」
打球はぼてぼてのファーストゴロ。船町北打線はこの回も1人のランナーすら出せずに終わった。
123456789
船町北 0000
大阪西蔭 400
---------------------------------------------------------------
小説の続きが気になるという方は、ブックマークや
下にある☆☆☆☆☆から作品への応援をいただけたら嬉しいです。




