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安達弾~打率2割の1番バッター~  作者: 林一
第9章 練習試合1試合目 船町北VS大阪西蔭 
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第59話 百瀬剛三②

 甲子園準々決勝にくるまで大阪西蔭高校はエースの千石1人で投げてきたため、百瀬にとってこれが甲子園初登板だった。緊急登板だったこともあり心も体も十分な準備ができないままマウンドに立った百瀬は、最初のバッターをいきなり歩かせてしまいノーアウト満塁の大ピンチを作ってしまう。


(押し出しの四球だけは避けたい)


 百瀬がそんな気持ちで投げた1球は、ストライクを取りたい一心で甘いコースに向かっていった。


「カキーン!!!!」


 結果は最悪の満塁ホームラン。この後百瀬は1アウトも取ることができないまま降板することになった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 


(あの時のイメージが強いからか、百瀬さんには全く怖さを感じないんだよな)


 そんなことを考えていた星に対して、百瀬が初球を投じた。


「ストライク!」


 左バッターの星の胸元を抉るカットボールに、星は思わずのけぞってしまった。


(速っ! これが百瀬さんのカットボールか。あの時の百瀬さんと同一人物とは思えないな)


 2球目、そして3球目と、百瀬はカットボールを連投。星はその2球ともバットを振りにいったが当てることすらできず、あっけなく三振に終わった。


 その後も2番バッターの白田、3番バッターの水谷と、百瀬のカットボールに翻弄されてまともなスイングすらさせてもらえないまま3者連続三振に打ち取られてしまった。


 百瀬剛三。2年生の時に初登板した甲子園の舞台で満塁ホームランを打たれるなど散々な結果に終わり一時はスランプに陥るも、持ち球の1つだったカットボールに磨きをかけてカットボール主体のあらたな投球スタイルを確立し見事復活。今年の春のセンバツではエース千石が100球を超えたあとの中継ぎや連投で投げられない試合での先発など、大車輪の活躍を見せた。


(船町北はん、試合前はやたらとうちの千石と試合できるか気にしてはったみたいやけど、その前にうちの百瀬のこと過小評価し過ぎやないか? 上位打線の3人がこんなあっさり打ち取られるようなクソ打線相手やったら正直千石出すんがもったいないわ。なんや無理やり理由でもつけて次の試合の登板なしにしてやろかな。とりあえず百瀬にはこのまま完封でもしてもろて格の違いを見せつけてやりまひょか)


 関西出身の戸次監督は昔から口が悪く、数年前には選手からパワハラで訴えられそうになったこともあり、普段は暴言防止のために丁寧な標準語を話すようにしている。しかし、心の中では相変わらず毒のある関西弁をつぶやいていた。

 

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