第52話 船町北VS龍谷千葉㉔
8回裏1アウト満塁。ホームランが出れば4点追加で合計10得点。つまり、ついさっきまで諦めかけていた連続2桁得点記録を30試合に更新できる可能性が見えてきたため、龍谷千葉ナインは俄然活気を取り戻していた。ついでに言うと、大量失点により黒山の暫定エースの座が剥奪される可能性が見えてきたことでライバルの白田と水谷もこっそり喜んでいた。
「おい片岡に西村! どっちでもいいからホームラン打て! 最低でも出塁して次に繋げろ。なんとしても2桁に乗せるんだ。あと片岡! ゲッツーなんてしようもんならレギュラーから外してやるからな!」
さっきまで負けてしまうかもと弱気になっていた森崎監督も、すっかり元気を取り戻していた。
(ゲッツーしたらレギュラーを外す? 冗談じゃない。俺は結果を残せなかったらいつでもレギュラー外される覚悟でやってんだ)
この春季大会からレギュラーの座を掴んだ2年生の片岡は、負けん気の強い野心家で相手ピッチャーの投球を常にベンチから観察しタイミングを取りながらイメージトレーニングを欠かさずおこなっていた。
(ここで結果を残してレギュラーを死守するだけじゃなくついでに打順も上げてやるぜ! 黒山のストレート、ベンチから観察してだいたいのタイミングのデータは取れた。あとは実際に打席で1球見て誤差を修正。ストレートの2球目がきたら必ず仕留めてやる!)
そんな7番バッター片岡に対して、黒山は初球、外角高めにストレートを投げた。見逃しストライク。
(やべーな。思ってた以上に伸びてくる。これはもう1球見ないと誤差を修正しきれないな。でも続けてストレート投げてくれるか?)
2球目、外角低めにストレート。見逃しストライク。
(よし、もう1球見れた。これで誤差は完全に修正できたぞ。バットが届く範囲にストレートがくれば全部ホームランにしてやる。逆に変化球がきたら見逃す。例え見逃し三振になったとしても下手に打ちにいってゲッツーになるくらいなら次の西村先輩に託す)
3球目、黒山が投じた球は、外角高めのストレートだった。
(ストレートきたー!!)
狙っていたストレートがきたことに片岡は歓喜しながらフルスイングでその球を捉えた。
「カキーン!!」
打球はレフト方向へ飛んでいくも、ホームランになるような当たりではなかった。しかし、犠牲フライとしては十分過ぎる飛距離だった。
(クッソ―完全に力負けした。手の痺れが尋常じゃない。まあでも、犠牲フライは打てたってことで最低限の仕事は果たせたかな)
レフトを守っていた白田はフライをキャッチすると、バックホームへダイレクトに送球した。
(ラッキー!)
(バカだなあ)
1塁ランナーの斎藤と2塁ランナーの田中は中継を挟まない無謀なダイレクト送球を見て心の中でそう呟きながらそれぞれ次の塁へと向かった。
(なんで中継挟まないんだ! ランナー進められてさらにピンチが広がるだろ!)
中継に入っていたショートの尾崎は、無謀なダイレクト送球をする白田に心の中でダメ出しをしていた。
(馬鹿野郎! あいつもしかして、黒山をエースから降ろすためにわざとあんな無謀な送球をしてピンチを広げようとしてるのか?)
鈴井監督も白田のこのプレーには怒り心頭だった。
しかし、今挙げた4人と打ったばかりの片岡、そして安達以外の両チーム選手達と森崎監督は、一見無謀にも思えるこのダイレクト送球をした狙いを理解していた。
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船町北 01020002
龍谷千葉 1021020
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