第450話 無名の3年生ピッチャー②
2年前。大阪西蔭高校野球部に入部した佐藤は、総勢100名を超える部員達のレベルの高さや練習の過酷さに圧倒されながらも、毎日毎日来る日も来る日も必死になって練習に打ち込んでいた。
1年前。2年生になった佐藤は最高球速が140キロを超えるなど、地道に取り組んできた練習の成果が徐々に出始めていた。しかし、1年上にいる千石や百瀬という160キロのストレートを投げる先輩達や、1年生ながらサイドスローを武器にベンチ入りを果たした万場兄弟の投球を見ていたため、自分なんてまだまだと自信を持てずにいた。だからこそ、佐藤は自信を付けるためさらに練習量を増やして努力を続けた。
そして今年の夏。3年生になった佐藤はついに念願のベンチ入りを果たすも、試合で先発するのはいつも万場兄弟の2人。しかもこの兄弟、ほとんど打たれることがないため、控え投手の佐藤に出番は一向に回ってこない。せっかくベンチ入りできたにもかかわらず、このままじゃ1度も公式戦に出場すらできないまま野球部での3年間を終えてしまう。そんな思いから、いつしか佐藤は密かにこう願うようになっていた。
(打たれろ万場兄弟! さっさと降板しちまえ!)
しかし、いざその願いが叶ってしまった佐藤は、初めて出場する公式戦、それも超満員の甲子園という大舞台に緊張しまくっていた。
(ブルペン通りにブルペン通りに……)
そう何度も自分に言い聞かせながら投球練習を行うも、ボールが思ったところにいってくれない。こうして初登板を迎えた佐藤。キャッチャー早乙女は外角低めにストレートを要求するも、佐藤の投じた初球は高めに浮いてしまう。
(低めへのコントロールに定評のある佐藤がいきなりこんな球を投げるとはな。さすがに公式戦初登板がこんな大舞台じゃ緊張してもしゃあないか。でも球自体は悪くないぞ。自信もってええで)
そう心の中で佐藤を励ましながら、2球目のサインを出す早乙女。
(内角の低めに外れるチェンジアップか。こんどこそしっかり低めに決めないと)
2球目を投げる佐藤。結果は内角ではなく真ん中のコースにいってしまうも、高さは狙い通り低めに外れるチェンジアップを投げることに成功した。
(よし、コースは甘くなったが低めに決まったぞ。次は……内角低めへカットボールか。甘く入らないように気を付けないと)
しかし、3球目のカットボールは気を付けていたはずの甘いコースにいってしまった。
(あっぶねー)
気が付くと佐藤は、まだ3球しか投げていないというのに汗だくになっていた。
(ダメだ。全然ブルペン通りに投げれない)
軽くパニックになっていた佐藤の心境を、打席にいた星は痛いほど理解していた。
(俺も1年生の秋季大会で初めて公式戦に出た時は、滅茶苦茶緊張したなあ。打席では1度も出塁すらできず、守備ではエラー2回もやらかして散々だった。きっとこのピッチャーも、あの時の俺と同じかそれ以上に緊張しているはず。さっきの甘いコースにきたカットボールといい初球の高めのストレートといい、もしかして緊張で思うように低めにコントロールできていないんじゃないか? となると、次に投げてきそうな球は……)
キャッチャーの早乙女は、4球目の配球を考えていた。
(2球目のチェンジアップ以外、低めにコントロールできてへんな。となると4球目はチェンジアップでいくか? でも甘く入ったら危ないし、ここは例え低めに決まらなかったとしても力で押し切れそうな……)
4球目。早乙女のサインに頷いた佐藤は、覚悟を決めて投球フォームに入った。
(正直早乙女のサイン通り低めに投げられる自信はない。それでも、悔いが残らないよう全力で投げ切ってやる。俺の野球人生の全てをかけた、渾身のストレートをな)
---------------------------------------------------------------
小説の続きが気になるという方は、ブックマークや
下にある☆☆☆☆☆から作品への応援をいただけたら嬉しいです。




