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安達弾~打率2割の1番バッター~  作者: 林一
第34章 夏の甲子園3回戦 船町北VS大阪西蔭
456/479

第447話 弟の尻拭い

 強烈な打球音が鳴り響くと、これまた強烈な勢いの打球が真っすぐバックスクリーン目掛けて飛んでいく。打たれた万場弟本人も、打った安達本人も、そしてこの試合を見ている全ての人々が、一瞬でホームランになると確信した。


「バーン!!」


 バックスクリーンに直撃した打球を、茫然と見つめる大阪西蔭の守備陣。割れんばかりの歓声。


      123456789 

 大阪西蔭 000123123 

 船町北  000200003 


 安達による推定飛距離140メートル越えの特大スリーランホームランにより、3点を追加した船町北高校。しかし、依然として点差は7もあり、常識的に考えれば逆転などまず不可能。だがそれでも、もしかしたら奇跡を起こしてくれんじゃないかという期待感が、球場中から立ち込めていた。


(もうこの試合、浩二は使いもんにならへんな)


 呆然と立ち尽くす万場弟の表情を見て、戸次監督は決断する。


「タイム! ピッチャー万場浩二に代わってファースト万場浩一。ファースト万場浩一に代わって斎藤で」


(浩一、弟の尻拭いしっかり頼むで)


 弟に代わってマウンドに上がる万場兄。


(全く、安達1人にいいようにやられたな。浩二、兄ちゃんの華麗な投球をベンチで見ながら、少し頭冷やしや)


 打席に上がるは、4番の山田。安達の特大ホームランで周りが騒々しい中、山田は冷静だった。


(安達の真似をして大きいのを狙う必要はない。7点差を埋めるには、とにかく出塁することが大事。そのために参考にすべきは…)


 山田はさっきの打席の星を見習って、バッターボックスのベース寄りギリギリの前ギリギリの位置に移動した。その様子を、万場兄は余裕の表情で見ていた。


(さっき浩二は1番バッターにこれをやられて、デッドボールを怖がって外角から入った。そしてそこを狙われた。だが俺は、あいつのようなビビりとちゃうで)


 そんな万場兄の考えを汲み取ったかのように、内角高めストレートのサインを出す早乙女。


(よしよし、それでええ)


 早乙女のサインに満足げに頷くと、投球フォームに入る万場兄。


(浩二、しっかり見とけよ。こういう姑息な手を使ってくる奴は、こうやって抑えるんやで)


 そんなことを考えながら投げた万場兄の初球だったが…。


(あっ、やべっ)


「デッドボール!!」


 万場兄が投げた球は、山田のユニフォームにわずかにかすってデッドボールとなった。


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