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安達弾~打率2割の1番バッター~  作者: 林一
第34章 夏の甲子園3回戦 船町北VS大阪西蔭
451/479

第442話 絶好のチャンス?

「クソッ!」


 普段あまり感情を表に出さない万場兄弟の弟浩二が、珍しく感情を露わにして悔しがる中、安達はゆっくりとベースを周る。その様子をキャッチャーの早乙女は、驚きながら眺めていた。


(初球から3球続けて内角の厳しいコースを攻めてからの、外角へのストレート。球速もキレもコースも悪うなかったはずやのに、その球を難なく逆方向のレフトスタンド上段へ運んでいきやがった。安達弾……こいつはほんまもんのバケモンや)


      123456789 

 大阪西蔭 0001

 船町北  0001


 安達がベースを1周し戻ってくると、ネクストバッターの山田とハイタッチを交わした。


「すげーホームランだったな」


「先輩も俺に続いてくださいね」


「おう! お前が作ってくれた絶好のチャンス、しっかり生かさないとな」


「絶好のチャンス?」


 2アウトランナーなしの状況にもかかわらず、なぜ山田が絶好のチャンスと言っているのか? 安達が抱いたこの疑問はすぐに解決することになる。


 打席に右バッターの4番山田が立つ。ここでいつもなら右の万場兄に交代するところだが、マウンドには左の万場弟が立ち続けていた。


「あれ? 何でピッチャー交代しないんだ?」


 観客席から試合を見ていた若い客の1人がこんな疑問を口にすると、隣に座っていた野球大好きおじさんがしたり顔で解説を始めた。


「交代しないんじゃなくて、できないんだよ。同一イニングでの投手交代にはルールがあってな。投手→野手→投手の交代までは認められているが、投手→野手→投手→野手の交代は認められていない。このイニングで万場弟は、1番星に投げた後2番野口の打席ではファーストの守備位置について、3番安達の打席で再び投手として投げている。つまり、万場弟はこのイニングが終わるまで投げ続けるかベンチに下がるかの二択しか選べないって訳だ」


「へーそんなルールがあるんですね」


「ちなみに、大阪西蔭が失点を許す数少ないシーンで一番多いパターンが、このルールのせいで右対右、左対左の万場兄弟お得意のパターンに持ち込めなかった今まさにこの状況だ。このイニング、まだ点が入るかもしれんぞ」


 高校野球大好きおじさんがそんな解説をしていたまさにその時、大きな打球音が鳴り響いた。


「カキーン!!!」


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