第435話 石橋叩き過ぎ
2回裏。前の回に比嘉が放ったライトフライで一気に士気が高まった船町北打線だったが、そんなことで打ち崩せるほど万場兄弟の投球は甘くなかった。
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大阪西蔭 00
船町北 00
あっという間に三者凡退に抑えられ、試合は3回表へと進む。打席に立つは、7番のキャッチャー早乙女。
(全く、カット隊のせいで完全に俺達悪役になってもうたな。ホンマかなわんわ。第一、わいはこんな狡い作戦最初から反対やったんや。うちの打線なら、いくらキレが凄いとはいえストレートしか投げれへんようなピッチャーを打ち崩せない訳がないやろ。ほんま、うちの監督は石橋を叩き過ぎやわ。少しは反省してもらわんと。この回の攻撃で、監督のこの采配がいかに間違っていたかを思い知らせたるわ)
バットを強く握り直す早乙女。
(わいはどちらかっちゅーと、打力よりもキャッチャーとしての守備力を買われてレギュラーになれたと思うとる。とはいえ、わいかて伊達に大阪西蔭の強力打線の一旦を担っとらんわ。6人連続で71球もカットで粘られて、体力的にも精神的にも追い詰められとるピッチャー相手にヒットが打てないほど、わいのバッティングは落ちぶれてへんで)
サインを出すキャッチャー西郷と、ゆっくりと頷く比嘉。
(そしてそれは、万場兄弟にも言えること。あいつら、入学した当初はひどいバッティングやったけど、この1年ちょっとで随分ましになったわ。まずはわいが長打を打って出塁する。あとは万場兄弟のどっちでもええから、わいをホームに返してくれ。下位打線の俺達3人で点を取れれば、監督だって自分の采配が間違ってたと認めざるをえないやろ)
比嘉が投球フォームに入ると、この試合72球目のストレートを投じた。
(真ん中高めの甘いコース。もらった!)
ニヤリと笑みを浮かべながら、フルスイングで比嘉のストレートを迎え撃つ早乙女。しかし……。
「ストライク!」
(なんや今の球は……絶好球かと思たら、そっから球が浮いて高めに外れたボール球になりよった)
続く73球目。内角の低めに外れそうなストレートを見送る早乙女だったが……。
「ストライク!」
(また浮き上がってきよった。こいつのストレート、一体どないなっとるんや?)
そして74球目。内角ギリギリにきたストレートに、何とかバットを当てようとする早乙女だったが……。
「ストライク! バッターアウト!」
(無理無理無理無理! こんなストレート、初見で打てる訳ないやろ。というかカット隊の奴ら、今までこんなストレートを何球もカットしてたんか……)
今までは内心、カットの技術だけでベンチ入りしていたカット隊のことを見下していた早乙女。しかし、この出来事がきっかけで、早乙女のカット隊に対する評価は180度変わっていた。
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