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安達弾~打率2割の1番バッター~  作者: 林一
第34章 夏の甲子園3回戦 船町北VS大阪西蔭
443/479

第434話 MVP

「カーン!」


「ファール!」


「カーン!」


「ファール!」


 2回表。打席に上がった4番の横関が比嘉の球をカットする度に、大きくなっていく観客席からの罵声。


「勝負から逃げるなよ!」


「ズルいぞ!」


「大阪の恥さらしが!」


 そんな有様を目の当たりにして、ベンチでスタンバイしていた6番バッターの広瀬は弱気になっていた。


(せっかく念願だった甲子園の舞台で試合に出られたっていうのに、これじゃあ俺達完全に悪役じゃないか。このままカット打法を続けてもいいのか?)


 そんな広瀬の心情を察してか、戸次監督が声をかける。


「広瀬君、どれだけ観客から罵倒されようが関係ありません。カット打法は立派な戦術です。私は見てきました。君達がこの日を迎えるまでどれだけ血の滲むような努力をしてきたのかを。そんな君達のことを罵倒するような奴らを、私は心底軽蔑します。迷う必要はありません。君が今まで努力してきた成果を精一杯出し尽くしてきてください」


 戸次監督の言葉に、広瀬は覚悟を決めた。


「はい!」


 その後も大阪西蔭打線は、カット打法をやり続けた。そして……。


「カーン!」


「アウト! スリーアウトチェンジ!」


 6番バッター広瀬がカットし損ねた打球を、キャッチャー西郷が懸命に追ってキャッチし2回表が終了した。しかしこの回、4番バッター横関を抑えるのに10球、5番バッター野宮を抑えるのに8球、そして6番バッター広瀬を抑えるのに13球も投げさせられた比嘉は、2回を終えてすでに71球もの球数を費やしていた。


 そして2回裏。大阪西蔭が守備に入ったところで、1番から6番までのカット隊のメンバー全員が、元のレギュラーメンバーと交代することになった。


「カット隊のみなさん、よくぞやってくれました。これで比嘉君はもう残り9球、最高でも3回までしか投げることができなくなりました。あとは比嘉君と交代で出てくる川合君や吉田君を、必ずやレギュラーメンバー達が滅多打ちにしてくれることでしょう。この試合、君達の記録上の成績は1打席無安打の守備に1回ついただけですが、それでもこの試合のMVPは、間違なく君達カット隊全員です!」


 ベンチにいるカット隊に対してかけられた戸次監督の労いの言葉に、選手達は思わず涙を流していた。


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