第420話 吉と出るか凶と出るか
2回表。吉田は何とか2アウトまでこぎ着けたものの、ランナー満塁という大ピンチを迎えていた。これには鈴井監督も、今ここで交代させるべきか悩んでいた。
(さすがにこれ以上は引っ張れないか)
タイムという言葉が喉元まで出かかるも、鈴井監督はその一言を飲み込んだ。
(いやまだ我慢だ。確かにピンチを迎えてはいるが、初回に比べると球速も出てきてるし、球のキレも戻りつつある。この回を無失点で切り抜けさえすれば、まだまだ十分立ち直れるはずだ。点を入れられるまでは吉田を信じよう)
果たしてこの決断が、吉と出るか凶と出るか。山形大星の6番バッター阿部が打席に立つと、鈴井監督は祈るようにしてこの対決を見守った。
初球。
「ボール!」
ストレートが、外角の高めに外れて1ボール。
2球目。
「ストライク!」
内角低めに投げたカーブを、阿部が空振りして1ストライク1ボール。
3球目。
「カーン!」
「ファール!」
内角高めへのストレートに当てた打球は、真後ろに飛ぶファールボールとなった。
(このバッター、ストレートにタイミングが合ってるたい。ならば、残りは全球変化球で攻めるたい)
4球目。
「ボール!」
外角の低めに外れたチェンジアップを、阿部が見送り2ストライク2ボール。
5球目。
「カーン!」
「ファール!」
内角ギリギリのコースに投げ込んだスライダーを、阿部は何とかカットする。
6球目。外角低めギリギリに投げ込んだカーブを、阿部は見送った。
(よし、ストライクたい!)
「ボール!」
(今のをとってくれないたいか。今日の審判は判定が厳しいばい。でも、この打席は特にコントロールが安定してるし球のキレもどんどん良くなってきてるたい。このピンチさえ乗り切れれば、吉田先輩はまだまだいけそうたい)
そして、運命の7球目。吉田が投げたのは、1番自信のあるチェンジアップだった。
「カーン!!」
内角低めにきたチェンジアップに、阿部は何とかバットを合わせるも完全に芯を外す打ち取った当たりだった。しかし、これが山形大星にとっては幸運にも、逆に船町北にとっては不運にも、ライト前にポツリと落ちる当たりとなってしまいサードランナーがホームを踏んで1点が入った。そして、セカンドランナーもサードベースを踏んでホームへと突っ込んでくる。
(これ以上点を入れさせてたまるか!)
ライトの山田が渾身の力を込めて投げたバックホームは、ノーバウンドのストライク送球でキャッチャー西郷の元に。
(よし、これでチェンジたい!)
スライディングで突っ込んでくるランナーに、西郷がタッチしにいったその時だった。
「ドスッ!」
ランナーのスライディングが西郷の左足を直撃し、鈍い音が響いた。
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