第414話 俺が打つしかない!
(比嘉が先発したあと、7回から再び投げ始める前に川合が投げたことで、目があの落ちるストレートに慣らされてしまったんだ。だから再び比嘉のストレートを見た時に、最初に見た時以上にキレが増したと誤解してしまった。でも実際は、ただの目の錯覚だったって訳だ)
比嘉の投球練習が終わり、菊池が打席に入る。
(ということは、川合のストレートが落ちるっていうのも誤解で、本当はただ比嘉のキレのいいストレートに目が慣らされたところにキレが異常に悪い川合のストレートを見たもんだから、そのギャップで余計に落ちているように感じていただけだったのかもしれないな。ようし、あいつらの異常なストレートのからくりはわかったぞ)
そんなことを菊池がぶつぶつと心の中で考えている間に、比嘉が初球のストレートを外角低めに投じた。
(低めに外れそうに見えるが、目の錯覚を考慮するとギリギリ入るか?)
そう思いながらも、様子を見て見逃す菊池。
「ボール!」
(あれ? 思ったより伸びてこなかったな。最初の対戦で見た時と同じくらいに感じるぞ。どうして俺だけ……ああ、そうか。俺はキャッチャーで古田のストレートを何度も目にしている。だから川合のストレートに慣らされてしまった他のバッターと違って、キレのいいストレートには免疫があるんだ。これはかなりのアドバンテージだぞ)
2球目。再びさっきと同じようなコースにくるストレートを見て、菊池はまた外れると見逃したが……。
「ストライク!」
(さっきのストレートよりも明らかに伸びてきた。これが噂の遅いストレートか)
電光掲示板を確認すると、120キロと表示されている。
(やっぱりそうか。普通のストレートにこれを混ぜられたら中々厄介だな。目の錯覚で余計キレが増して見えてしまうみんなにとっては尚更のこと。この試合、なんとか同点に追いつくためには俺が打つしかない!)
菊池はバットを長く持ち直した。
(普通のヒットではダメだ。俺が出塁したところで、続くバッターが打てない可能性の方が高い。ここで今俺が打つべきは、ホームラン一択だ!)
3球目。内角の高めにきたストレートを、菊池はフルスイングで迎え撃つ。
「カーン!!」
「ファール!」
(今のは遅いストレートか。捉え損ねたがタイミングは合ってたぞ。俺はついさっきまで150キロ越えの古田のストレートを何度も受けてきたんだ。いくらキレが凄いとはいえ、こんな遅い球なら何度でもくらいついてやる。ホームランをぶっ放すまではな)
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