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安達弾~打率2割の1番バッター~  作者: 林一
第32章 夏の甲子園1回戦 船町北VS秋田腕金
422/479

第413話 わかったぞ!

 8回表。マウンドに上がった古田は、7回に記録した155キロこそ超えられないものの、150キロオバーの速球を連発し、6番佐々木、7番比嘉、そして8番西郷とまたもや3者連続三振を記録した。5回表の途中から左で登板し、2番野口を三振で抑えた時から数えるとすでに7者連続三振という圧巻のピッチングに球場中が盛り上がる中、その球を受ける菊池はずっと次の回で対戦する比嘉のことを考えていた。


(あの安達すら空振りの三振に抑えた古田が残りのイニングで打たれることは、もはや有り得ないだろう。ただ、このままいくとうちのチームは1対0で負けてしまう。ここから逆転するには比嘉を打ち崩さなければならないが……なぜかここにきて、うちの上位打線3人が3者連続三振を食らってしまった。しかも、3人揃ってやれストレートのキレが増したとか、遅いストレートのキレがヤバすぎるとか比嘉のピッチングが急に変わったと言っていた。これは一体どういうことなんだ?)


 8回表の守備を終えて、キャッチャーのマスクや防具を外しならがらも、なぜ比嘉が7回に入っていきなり投球が良くなったかの理由を、菊池はひたすら考えていた。


(遅いストレートのキレがヤバいというのはただ単に2巡目の対戦に備えてとっておきの球を温存していただけだろうが、初回から投げていた普通のストレートのキレまで増したというのがどうも気になるんだよな。試合の中で徐々に球速が上がるとかならまだスロースターターの投手にはありがちなことだが、球のキレが急に良くなるなんて聞いたことがないぞ。一体どういうからくりだ?)


「おい菊池! 何してんだ。次はお前の打順だぞ」


「すみません、今行きます」


 菊池が打順を忘れていると勘違いした監督にせかされ、急いで打席に向かう菊池。そのベンチから打席へと向かう最中のことだった。


(全く、こっちはギリギリまで比嘉の対策を考えながらあえてゆっくり着替えてたってのに、あんな言い方されたらみんなに俺が打順を忘れてたって誤解され……)


 その誤解という言葉を心の中で呟いた瞬間、菊池は閃いた。


(そうか、わかったぞ! 比嘉のストレートのキレが増したというのは誤解だったんだ)


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