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安達弾~打率2割の1番バッター~  作者: 林一
第32章 夏の甲子園1回戦 船町北VS秋田腕金
411/479

第402話 牽制球

 観客達が盛り上がっていく中、打席に立つ2番バッター野口は冷静に今の状況を分析していた。


(回の途中でいきなり投げる腕を変えてくるなんて、今までの試合では1度もなかった。つまり、何らかのアクシデントで急遽左で投げられることを強いられたということだ。だから恐らく、左での投球練習はしておらず肩はできていない。この打席、さらに追加点を奪う絶好のチャンスだぞ)


 そんなことを考えながら古田の初球を待ち構えていた野口だったが……。


「セーフ!」


「セーフ!」


「セーフ!」


 初球を投げる前にいきなり3回も牽制球を挟む古田。


(星は足の速いバッターが揃っているうちのチームの中でも、さらに1番足が速い。だから盗塁を警戒されるのは当然と言われたら当然だが……)


「ボール!」


 3回の牽制球の後、ようやく投げてきた初球の球は、外に外れるストレートだった。


(速い! 一体何キロ出ているんだ?)


 電光掲示板に表示されている球速を確認する野口。


『137』


(えっ! そんなもんしか出てないのか。少なくても140キロ後半は出ているように感じたが……監督が言っていた通り、古田のストレートのキレはすさまじいな。だが、確か古田の平均速度は143キロだったはず。思った通り、まだ肩ができていないみたいだな)


 そしてこの初球を投げた直後、再び3回連続で牽制球を挟む古田を見て、野口はようやく理解した。


(そうか! 分かったぞ。このしつこいぐらいの牽制球の狙いは、盗塁阻止じゃない。肩を作るためだったんだ)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ベンチに戻ってグローブの交換を済ませた古田は、マウンドに戻る前にキャッチャー菊池の元に駆け寄ると、耳元でこう呟いた。


「初球を投げる前に3回牽制球。その後1回外に外したストレートを挟んでからまた3回連続で牽制球を投げる。そしてまた、外に外したストレートを投げる。これである程度肩は温まるはずだ。そこからの配球は任せたぞ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ここでようやく2球目の投球をする古田。投げた球は、またしても外に外れるストレート。球速は142キロを記録していた。


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