第396話 覚醒?
甲子園の球場に詰めかけた満員の観客達は、自身の最速記録を初球から更新する156キロのストレートを投げた川合に大いに沸いていた。そして、さらに続く2球目も……。
「ストライク!」
川合が投げた球はまたもやど真ん中へのストレート。そして球速は2球続けて156キロを記録した。
続けざまに剛速球を投げる川合にさらに沸く観客達を尻目に、キャッチャーの西郷は別の部分で驚きを隠せずにいた。
(あのノーコンの川合先輩が2球連続でストライク……しかも2球とも、おいどんがど真ん中に構えたミットの位置にドンピシャにきたばい。もしかして川合先輩……この大舞台でいきなり覚醒したばいか?)
今まで西郷は、川合が投げる試合では常にど真ん中にミットを構えていた。しかしこれは、本当にど真ん中に投げてほしいからそこに構えていたのではなく、川合のコントロールがあまりにも悪過ぎて、常にど真ん中目掛けて投げたとしても5球に2球くらいしかストライクが入らないほどのノーコンだったからに他ならない。
しかし、この甲子園初戦という大舞台での初登板でいきなり2球続けて構えたミットの位置ドンピシャに投げ込んできた川合の投球を見て、西郷はこんなことを考え始めていた。
(今までおいどんは、川合先輩が登板する試合ではただの壁役だった。後ろに逸らさないように気を付けるのが精一杯で、まともな配球などろくにできなかったばい。でも、今の覚醒した川合先輩なら、念願だった配球がやっとできるかもしれんたい)
『練習でできないことは試合でもできない』
それは野球に限らず全てのスポーツに言えることだ。プレッシャーの少ない練習ですらできないことが、いきなりプレッシャーのかかる本番の試合でできるようになることなど常識的に考えて有り得ない。しかし、そんな常識を打ち破ってしまうようなプレーをする選手は、野球に限らずどのスポーツにも僅かながら存在する。
川合の3球目。西郷はそんな一縷の望みをかけて、今までずっと定位置だったど真ん中から、ミットを外角の低めへと移動させた。
---------------------------------------------------------------
小説の続きが気になるという方は、ブックマークや
下にある☆☆☆☆☆から作品への応援をいただけたら嬉しいです。




