第35話 船町北VS龍谷千葉⑦
「タイムお願いします!」
鶴田はタイムをかけると、マウンドの白田の元に向かった。
「多分走られると思うけど、バッターに集中しよう。清村兄がホームに帰ってきたとしてもまだ2点だ。ホームランだけは打たれないように注意して丁寧に投げていこう」
「わかった」
3塁手の福山も白田に声をかける。
「白田、悪かった。初回といい今といい俺がアウトにできていれば終わっていたのに」
「しょうがねえよ。福山がアウトにできなかったってことは他の誰が守っていてもアウトにできなかったってことだろ? さっさと切り替えてこうぜ」
さっさと切り替えてこうぜ。口ではこう言っていた白田だったが、白田自身は気持ちをうまく切り替えられずにいた。初回の1失点後はノーヒットで抑えてはいたものの、相手はあの龍谷千葉打線。一歩間違えたらいつホームランを打たれるかわからないという強烈なプレッシャーを感じながら投げ続けてきた白田の心は常に張り詰めていた。そんなぎりぎりの心理状態の中、ついに3回2アウトまでやってきた。そして相手は清村兄。こいつさえ抑えれば終わる。最後の力を振り絞って投げた渾身のスライダー。普通にヒットを打たれただけならまだ気持ちを切り変えやすかったかもしれない。しかし結果はバントという肩透かしを食らった形での出塁。そんな僅かな気持ちのほころびが、その後の結果を左右することになる。
2番バッター小林に対して白田の初球は外角低めのスライダー。見逃しストライクを取るも、ランナー清村兄に走られ2塁への盗塁を許してしまう。
そして2球目。鶴田のサインは内角の高めに少し外したストレート。しかし、白田の投じたストレートは真ん中高めのストライクゾーンに向かっていく。コントロールの良い白田にとっては珍しい明らかな失投。この失投を龍谷千葉打線のレギュラーに名を連ねる小林が見逃すはずがなかった。
「カキーン!!!!」
レフトを守っていた水谷が走って打球を追いかけるも、すぐに諦めて足を緩めた。
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船町北 010
龍谷千葉 102
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