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安達弾~打率2割の1番バッター~  作者: 林一
第28章 夏の甲子園千葉大会決勝 船町北VS三街道
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第348話 天才の弟

 そんなことが一瞬頭によぎったものの、細田兄はすぐに考えを改めた。


(いやいや、相手の弱点を突くのは別に卑怯でも何でもない。どんなやり方だろうが、勝ちは勝ちだ)


 そう自分に言い聞かせながら、投球を再開する細田兄。


「ボール!」


(やべっ、また低く投げ過ぎた。もうちょっとだけ高めに)


 4球目を投げる細田兄。


「ボール!」


(あー畜生。急にコントロールが効かなくなっちまった。やっぱりいくら心に言い聞かせても、体までは騙せないってことだな)


 この時、細田兄の脳裏には今までの野球人生が走馬灯の様に思い浮かんでいた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 サッカーにバスケにバレーボール。細田兄がまだ小学生の頃に取り組んできたスポーツの一覧だ。しかし、これらのスポーツは、どれも始めてから1年と続かずに辞めてしまった。なぜなら、兄を真似して同じスポーツを始めた弟に、いつもあっという間に追い抜かれてしまうからだ。


 同じ兄弟で、2歳年上というアドバンテージがあるにもかかわらず、いつも天才肌の弟に抜かれてしまう兄。細田兄はいつもそんな状況に耐えられず、弟に抜かれる度にそのスポーツを辞めてしまっていた。


 しかし唯一、中学から始めた野球だけは、弟に抜かれた後も辞めようとはしなかった。


(ここでまた辞めてしまったら、俺は一生弟に負けっぱなしの人生で終わってしまう)


 そんな弟に対するライバル心だけで、細田兄は中々結果が残せない中でもまじめに野球の練習に取り組んできた。そしてその努力が、高校1年の秋頃から徐々に報われ始めた。


 その頃から身長が急激に伸び始めた細田兄は、体の成長に合わせて球速も一気に伸びていき、唯一の持ち球だったカーブもその高身長が相まって強力な武器となった。練習試合では今まで打たれまくっていた格上のチーム相手にも勝てるようになり、いつも天才の弟と比べられて卑屈になりがちだった細田兄にも徐々に自信が付いていった。


 そしてその自信はやがて過信となり、天狗になりかけていた細田兄の鼻を見事にへし折ったのが、去年の春季大会で対戦した安達弾だった。


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