第30話 船町北VS龍谷千葉②
1回裏。龍谷千葉の攻撃。1番バッターの清村兄がバッターボックスの左打席に立つ。
(監督はスライダーかシュートを狙えって言ってたけど、それじゃあつまんねえよな。せっかくだし……)
初球。内角低めのストレート。ストライク。
2球目。外角低めシュート。ボール。
3球目。内角低めにスライダー。ボール。
4球目。外角高めにストレート。ストライク。
(よし、追い込んだ。清村兄は足もあるし絶対塁には出したくない。ここはフォークで空振りを取りにいこう。もしも振らなくてもまだフォアボールにはならないしな)
キャッチャーの鶴田は真ん中低めのボール球になるフォークを要求し、白田は注文通りのフォークボールを投じた。清村兄はこの打席初めてとなるスイングを始める。
(よし、空振りだ!)
鶴田と白田が全く同じタイミングで空振り三振を確信したその瞬間、清村兄は地面すれすれの球を器用にすくい上げると、打球はセンター前にポトリと落ちた。
(あの野郎、わざとフォークを狙ったな。また俺の作戦を無視しやがって)
森崎監督は清村兄のことをあまり良くは思っていなかった。元々森崎監督は自分好みのホームランバッターの清村弟だけを獲得するつもりでいたが、兄弟同じチームで甲子園優勝を目指したいという弟たっての希望を受け入れ仕方なく兄の方も獲得したという経緯があった。
(でも、必ず結果を出すから文句言えないんだよな……ほんとムカつく奴だ)
2番の右バッター小林に対し、鶴田は初球外角に外すストレートを要求した。
(下手に牽制球を投げるとフォームを盗まれる危険があるからな。清村兄、さっきはやられたが今度はこっちがやり返す番だ。さあ、走ってみろ。絶対刺してやる)
白田が投球を始めた瞬間、清村兄は走り始めた。
(よし、狙い通り)
鶴田は白田の球を捕球するや否や素早く2塁へ送球した。
(刺せる!)
鶴田は送球してすぐにそう確信した。なぜなら送球した球がセカンドベース右寄りの低めという盗塁でランナーを刺すのに最も時間のロスが少ない理想的なコースへと向かっていたからだ。
「セーフ!」
鶴田は一瞬自分の目と耳を疑った。
(盗塁を警戒して球を外し、そして完璧なコースに送球した。それなのにセーフ……ダメだ。俺の肩では清村兄の盗塁を防げない)
鶴田はタイムをかけるとマウンドの白田に声をかけた。
「バッターに集中しよう。はっきり言って俺の肩じゃあいつの盗塁は防げない。これから右バッターの打席が続くからなおさら送球しづらいしな。三盗までは覚悟しておこう。それよりも今はバッターに集中して今日の投球プランをしっかり実行していこう」
今日の投球プランとは、去年の龍谷千葉との試合で白田がスライダーとシュートを狙い打たれてホームランを3本も浴びたことの反省を踏まえて、今回はスライダーとシュートを見せ球に使いストレートとフォークでカウントを取っていくというものだった。
「了解」
鶴田と白田が前日に相談して決めたこの作戦は、奇しくも森崎監督の作戦の裏をかく形となり2番小林、3番鈴木を連続三振に打ち取ることに成功した。なお、その間に清村兄は3塁への盗塁を決めていた。そして、4番バッターの清村弟が右打席に立った。
(まだ1年生だってのに、すげえ風格だな。華奢な兄貴の方とは対照的なでっぷりとしたお腹。これじゃあ内角の厳しいとこに投げると腹に当たってデットボールになりそうだな。とりあえず外角低めにスライダーのボール球を投げさせて様子を見るか)
白田の投じたスライダーは、ストライクゾーンから外角にボール2つ分ほど離れた場所に向かって進んでいく。清村弟は足を踏み込みながらそのボール球めがけて迷わずフルスイングをした。
「カキーン!!」
清村弟の打球は、金属バットの先っぽ、芯からは完全に外れた場所で打ったにも拘わらず凄まじい勢いで三塁線を襲った。しかし、そこは三塁手福山の正面。福山はその打球をダイレクトでキャッチしようとした。
「パンッ!」
福山のミットは弾け飛び、ボールは点々とファールゾーンの外へと転がっていく。清村兄は悠々とホームイン。弟は大きなお腹を揺らしながら一塁ベースを蹴って二塁へ向かう。
「行かせるか!」
レフトを守っていた水谷は球を拾うと素早くセカンドへ矢のような送球を投じた。
「アウト!」
水谷の好守と清村弟の鈍足に助けられた形で、1回裏龍谷千葉の攻撃は幕を閉じた。
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船町北 0
龍谷千葉 1
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