第29話 船町北VS龍谷千葉①
西暦2016年。5月4日。春季大会準々決勝。船町北VS龍谷千葉が始まった。
船町北高校スターティングメンバー
1 星 (中)
2 白田(投)
3 水谷(左)
4 安達(一)
5 黒山(右)
6 福山(三)
7 新垣(二)
8 尾崎(遊)
9 鶴田(捕)
龍谷千葉高校スターティングメンバー
1 清村兄(遊)
2 小林 (右)
3 鈴木 (左)
4 清村弟(捕)
5 田中 (中)
6 斎藤 (一)
7 片岡 (三)
8 西村 (二)
9 山田 (投)
1回の表。船町北の攻撃。先発の山田が投げた初球はど真ん中のスローボール。見逃しストライク。
(おっそー。これはすぐにでも打ちたくなる球だな。でも、焦るな焦るな。スローカーブとストレートの球筋も見ておき……)
星がそんなことを考えている間に、すかさず山田は2球目を投げてきた。これもスローボール。真ん中高めで見逃しストライク。
(投球間隔短いな。そしてまたスローボール。もう追い込まれた。次は打ちにいかないと)
山田の3球目は、1、2球目と同じような山なりの軌道を描いている。
(曲がって……こない。またスローボール!)
星が振ったバットは、外角の高めにきた球を捉え、三遊間へ打球が飛んだ。
(よし、抜ける!)
星がそう思った矢先、ショートの鈴村兄が逆シングルでキャッチすると素早く1塁へ送球。俊足の星が全力疾走していたにも関わらず1メートル以上手前でアウトとなった。
(くそ! 清村兄の守備……あの頃よりも進化している)
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今から2年前。千葉のシニアチームに所属していた当時中学3年生の星は、中学最後の大会でギリギリベンチ入りはしていたものの、試合には代走以外では1度も出場できていなかった。そんな中、3回戦で清村兄弟が所属するチームと対戦し、星のチームは大差で負けていた。そして最終回。2アウトランナーなしの状況で、星は代打として試合に出ることとなった。
(恐らくこれが中学最後の打席。せめてヒット1本は打ちたい)
星は相手ピッチャーのストレート1本に山を張って思い切りバットを振り抜いた。
「カキーン!」
打球が三遊間へ飛んでいく。
(抜けるか?)
そう期待した星だったが、打球はショートを守っていた清村兄に逆シングルでキャッチされ、星は惜しくもギリギリのタイミングでアウトとなった。
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2番の白田に対して、山田は2球連続でスローボールを投げてきた。2ストライク。
(星から数えて5回連続のスローボール。このままスローボール1本で抑えるつもりか。舐めやがって)
そして3球目。ゆったりとしたフォームから、山田はまたもや山なりの球を投じた、かに見えた。少なくとも白田の目には。
「ストライク! バッターアウト!」
(今のがストレートか。スローボールの時と全く同じフォームから急に速い球がきた。こいつは予想以上に打ちづらいな)
3番の水谷は、元々はじっくりと球を見ていく予定だったが、前の2人の打席を見て方針を変えることにした。
(追い込まれる前に1番打ちやすそうなスローボールを早めに狙った方が良さそうだな)
水谷へ投じた山田の初球は、内角高めのストレート。見逃しストライク。
(配球を変えてきたか。でも狙い球は変えない。スローボ……)
そんなことを考えている間にも、山田はたて続けに2球目を投げてきた。外角寄りのストレート。見逃しストライク。
(やばっ、もう追い込まれた。次は振りにいかな……)
すかさず山田は水谷へ山なりの遅いボールを投じた。
(よし、やっと狙ってたスローボール!)
水谷が振ったバットを避けるように、球は外角低めの方向に曲がっていった。
「ストライク! バッターアウト!」
(くそ! ここでスローカーブか)
船町北の初回の攻撃は、安達の前にランナーを1人も溜めることができないままあっさりと三者凡退に終わった。
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