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安達弾~打率2割の1番バッター~  作者: 林一
第26章 夏の甲子園千葉大会準決勝 船町北VS千葉修道
296/479

第288話 達観の境地①

「カキーン!!!」


 7回表。ここまで何とか無失点に抑えてきた吉田だったが、先頭バッターの1番野宮に内角へのストレートを打たれ、センターとライトの間を突き破るツーベースヒットとなった。


(ちっ、本当はホームランを打ってやりたかったんだがな。もう7回だってのに中々球威が衰えねえもんだからツーベース止まりになっちまったか。まあいい。この回で俺達の打線がお前を滅多打ちにしてやる。覚悟しておけよ!)


 ノーアウトランナー2塁というピンチを背負い、キャッチャーの西郷は失点を覚悟していた。


(この場面、1点はしょうがないたい。それよりも心配なのは、吉田先輩のメンタルたい。ここまでずっと無失点でこられた分、ここで点を取られたら一気に緊張の糸が切れてズルズルと大量失点に繋がってしまう危険があるたい)


 続く2番バッター越智には、変化球を低めに集めて何とか抑えようとするも、3球目に投げた内角低めへのスライダーをうまくレフト前に運ばれ、ノーアウト1、3塁とさらにピンチが広がった。


(吉田先輩の球は悪くないたい。投げミスもほとんどない。ただ単純に、千葉修道打線のバッティング技術が凄すぎるたい)


 そしてそれは、3番バッター立花に対して吉田が2球目にストレートを投げた時だった。


「カキーン!!!」


 吉田が投げたストレートは、コースもキレも申し分ない外角低めギリギリへのストレートだった。並みのバッターならまず手が出ないようなそのストレートを、立花はしっかりと足を踏み込んだ力強いスイングで捉えた。打球はグングンとセンター方向に真っすぐ伸びていくも、角度が付かなかったためセンターを守っていた星がキャッチした。しかし、犠牲フライには十分な飛距離だった。サードランナーの野宮がタッチアップでホームインして、千葉修道打線はこの試合両チーム通じて初めての得点を奪った。


      123456789

 千葉修道 0000001

 船町北  000000


(吉田先輩の球は悪くないのに、それでも点を取られてしまったばい。しかもまだ1アウトでランナーもいる。きっと今1番吉田先輩が苦しいはずたい。こんな時こそ、キャッチャーのおいどんがしっかりせねば)


 1度タイムでも取って吉田先輩を落ち着かせようかと考えていた西郷だったが、それを察知したのか、吉田は首を振って西郷がタイムを取ろうとするのをやめさせた。


(俺の調子は悪くない。ただ相手が強いだけだ。思えばほんの3か月前、俺は1アウトしか奪えないまま6失点もされたんだ。それを考えれば、今まで無失点でこられたのが不思議なくらいだ。だからこんな失点、大したことじゃねえ。ただ俺は精一杯、自分の今の全力を出し尽くすだけだ)


 3カ月前の春季大会での敗戦を経て、そんな達観の境地に至っていた吉田には、タイムを取って気持ちを落ち着かせる必要などなかった。吉田はただ淡々と西郷が出すサインに頷いて、今自身ができる最大限の投球をすることだけに神経を集中させていた。


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