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安達弾~打率2割の1番バッター~  作者: 林一
第17章 夏の甲子園決勝 龍谷千葉VS大阪西蔭
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第196話 ニュースター誕生④

 6回裏。2アウト1、2塁。打席に立つ1番の三浦は、内角の厳しいコースに投げ込む村沢の球をことごとくカットしていき、最後は高めに外れた球をなんとかバットを止めて見逃した。


「ボールフォア!」


 これで2アウト満塁。4回、5回に続いて3度目の満塁のピンチを迎えた村沢。


(また満塁か。いいぜ。何度だって抑えてやる。大阪西蔭の逆転を信じる観客達の期待をまたまた裏切って、失意のどん底まで突き落としてやるぜ)


 そうやる気を出していた村沢の耳に、予期せぬ声が入ってきた。


「村沢頑張れー!」


「期待してるぞー!」


「大阪西蔭打線を完封してやれ!」


(えっ? 何で俺が応援されているんだ?)


 初回から毎回のようにヒットを打たれ、4、5回では満塁のピンチまで作りながらも無失点に抑え続け、さらには逆点のホームランを放った村沢。そんな彼の姿は、相手チームを応援していた観客達をも魅了し、ついには村沢を応援し始める者が後を絶たなかった。


 球場だけではない。甲子園決勝をテレビで観戦している視聴者達も、村沢和樹という無名だった高校球児が一躍スターへと変貌していくその姿を、この目に焼き付けようとしていた。


(あいつのプレーが、完全アウェイだった球場の空気を変えた。すげーぞ村沢。まだまだ先は長いけど、こいつとなら大阪西蔭打線を9回まで抑えられそうな気がしてきたぜ)


 観客達の熱い声援に力をもらって、俄然やる気に満ち溢れる龍谷千葉ナイン達。しかし、肝心の村沢はというと……。


(さっきまで大阪西蔭の応援をしていた癖に、簡単に裏切りやがって。なんて勝手な奴らなんだ。こんな奴らに応援されたって、嬉しくもなんともない。それどころか……)


 この時点で、村沢の球数は125球。100球を超えた前の回から、村沢の体の疲労は限界に近づきつつあった。しかし、完全アウェイだった球場の雰囲気が村沢の精神的な支えとなり、その疲労を忘れさせていた。


(やべっ、急に体が重くなってきた)


 それが、奇しくも村沢の活躍によって、アウェイだった球場の雰囲気が一気に崩れてしまった。精神的な拠り所をなくした村沢に、もうこれ以上大阪西蔭打線を抑える力は残されていなかった。


「カキーン!!!」


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