第18話 船町北VS三街道⑤
(バカ野郎! 確かにさっきは球をしっかり見ろと言ったが振らなきゃ意味ないだろうが! 全く、もう1回説教が必要なようだな)
そう鈴井監督が安達を呼びつけようとしたその時、監督の隣に座っていたキャプテンの上杉がそれを制止した。
「監督、ちょっと待ってください」
「どうした上杉?」
「安達の様子をよく見てください。1打席目のあとは顔をうつむかせながら帰ってきた安達が、今は顔をあげて表情にもどこか余裕を感じます。きっと何かをつかんだんでしょう。次の打席、あいつ絶対打ちますよ」
「まあそうだな。あまり過保護にあれこれ言うよりも、今はあいつを信じてみるか」
その後も両校エースはノーヒットピッチングを続けた。そして、7回表。船町北の3巡目の攻撃が始まった。
(1打席目はカーブにバットが出ずに三振。2打席目は逆にカーブを意識し過ぎてストレートにタイミングが合わずまたもや三振。思い返せば今日の俺は全部細田のカーブにやられている。それなら……)
先頭バッターの星は、カーブを完全に捨てて、ストレートの中でも落差があまりなく比較的狙いやすい高めのストレート一本に狙いを絞った。
「カキーン!」
細田が投じた初球は、奇しくも星が狙っていた高めのストレート。星はそれをしぶとくセンター前に運び、見事チーム初安打を放った。
(よし! これで安達まで打席が回る。ホームランが出れば逆転だ。ゲッツーにでもならない限り。そして安達の前のバッターは白田と水谷。この2人はなまじミート力があるだけにゲッツーになる確率が高い。ここは確実に送りバントのサインを出すか)
2番バッター白田は、鈴井監督のサイン通り細田の初球をしっかりと送りバントを決めた。
(ゲッツーの心配がなくなった。ふー。これで安心して打てるぜ。安達、悪いが先にランナーを返させてもらうぜ)
そう意気込んでいた3番バッター水谷だったが、2球目のカーブをひっかけてあっさりとピッチャーゴロに打ち取られた。
そして、4番バッター安達の打席が回ってきた。
(さっきの2打席目、一見あっさりと見逃し三振をくらったようにも見えたが、どこか不気味な雰囲気を感じたんだよな。1打席目のスイングといいこの1年生はやはり危険だ。ここは厳しく攻めるぞ)
キャッチャーの太田は、内角ぎりぎりの厳しいコースのストレートを要求した。
(ヒット1本で同点になる大事な局面。当てるくらいの気持ちで強気に投げきるぞ)
細田の投げた球は、太田の構えたミットよりもさらにボール1個分内角をえぐる厳しいコースへと向かっていった。
(ヤベっ! 本当に当たりそう!)
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