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安達弾~打率2割の1番バッター~  作者: 林一
第4章 春季大会スタート
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第13話 急成長②

 西暦2016年。4月30日。春季大会2回戦前日。


 船町北高校グラウンドでは守備練習が行われ、安達が一塁守備を無難にこなしていた。その様子を見ながら、監督は明日の一塁手のスタメンを誰にするのかで悩んでいた。


(ついこの前まではキャッチボールすらまともにできなかった安達が、たったの1ヶ月足らずでここまで急成長するとは。特にキャッチングだけならキャプテンの上杉にもひけをとらない程だ。おそらく子供の頃から毎日ピッチングマシーンが投げる速球を見なれていたおかげで動体視力が良いのだろう。だがしかし……人生初めての実戦が夏の大会のシード権が掛かった重要な試合となるとさすがに心配だな)


 その時、守備練習をしていた安達が本塁への送球を高めに暴投するエラーをした。


(これが怖いんだよなー。守備練習を始めたばかりの頃と比べたら大分ましになったものの、今でもたまにやらかす送球ミス。いくら一発が期待できるからといって、安達をスタメンで出すのはやはりリスクが大きい。ここはやはり上杉をスタメンにするべきか……)


「監督! 今明日のスタメンのこと考えてませんでした?」


 監督にそう声をかけてきたのは、キャプテンで現一塁手スタメンの上杉克己だった。


「お前はメンタリストか! ああ考えてたよ。一塁のスタメンをお前にするか安達にするかをな」


「やっぱりそうでしたか。監督、明日のスタメンは絶対安達にするべきです」


「お前試合に出たくないのか? キャプテンのくせに偉く消極的だな」


「こんなこと言ったら怒られるかもしれないですけど、正直言って出たくないっすよ。だって昨日の試合のピッチャー見ました? 僕じゃあ絶対打てませんよ。というかうちのチームでまともにあの球を打てるのは安達くらいじゃないですか?」


「まあ確かにそうだな。もしも安達がスタメンで出なかった場合、おそらく得点できても1、2点がやっとだろう。だがそれは相手にも言えること。明日は黒山を最後までいかせるつもりだ。元々3投手の中でも頭一つ抜けた実力を持っていたが、ここ最近の急成長ぶりには目を見張るものがある。そうそう、安達にホームランを打たれた頃からだよ。あそこから明らかに雰囲気が変わった。内心相当悔しかったんだろうな。今の黒山なら、三街道打線を完封できる可能性は高い。それなら守備に不安がある安達を出すよりも、お前がスタメンに出て確実に守りきる本来のうちのスタイルで戦う方が勝率が高いと思うんだよな」


「監督! ちょと目先の勝負にこだわり過ぎじゃないですか? もしも明日安達がエラーして試合に負けたとしても、たかがシード権を失うだけです。うちはピッチャーが3人もいますし、1試合増えるくらい大したリスクじゃないっすよ。それよりも今大事なのは、夏の大会の前に安達に1試合でも公式戦の緊張感の中での試合をフルで経験させること。それがうちの甲子園初出場への確率を上げる一番の選択だと僕は思います」


「キャプテンのお前がそこまで言うなら……わかった。明日のスタメンは安達にする。ただし、終盤でうちがリードしていたら守備固めで出場してもらうからな。ちゃんと準備しておけよ」


「はい、ありがとうございます」


(上杉克己……最初のキャプテン候補だった黒山にプレイに集中したいからと断られ、消去法でキャプテンになってもらったという経緯もあって今一つパッとしない印象だったが、今ではすっかり頼れるキャプテンに成長してくれたな。安達、黒山、そして上杉……たったの1年足らずで急成長した細田の投球を見てすっかり弱気になってしまっていたが、うちのチームだって絶賛急成長中だ。明日は安達を加えた新生船町北高校のデビュー戦。シード権どうこう考え過ぎず、新しいチームの船出を見守っていくとするか)


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