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衣食家本舗   作者: 宇喜多 家家
1/1

epilogue

ど素人が初めて投稿しました。よろしければご覧ください。



慶次郎が福岡空港に着いたのは夕方6時前だった。 今日は天気もよく4月も後半ということもあり、まだ日も明るく暖かい。


発着ゲートを通過した慶次郎は叔母が迎えに来てるはずの到着待ち合い場を見回した。が、それらしき人はいない。もっとも、叔母と言っても最後に会ったのは慶次郎が2才の頃だと母が言っていたので、もちろん記憶にはないし、唯一顔がわかるのは20年前に叔母と慶次郎が一緒に写っている写真だけである。

印象としては、母さんとは似ていない、美人で(慶次郎は母は可愛い系だと思っている)いかにも仕事が出来そうなクールビューティーというイメージだ。

まだ来てないのかな?と思い、とりあえずロビーの席に腰を下ろし、背負っていたリュックを横の席に置き、パーカーの長袖を捲り上げながらフーッと溜め息とも深呼吸とも取れる深い呼吸をしてみた。「さあ、来たぞ福岡。俺のこれまでのつまんなかった人生、楽しくしてくれよ!」


−3日前−

「慶ちゃん、あなた 福岡で就職してみない?」

友達と明け方まで遊んで夕方まで寝ていた慶次郎に、母が突然言ってきた。

まだ、寝ぼけて聞いてるなか聞いてないのかわからない慶次郎に母はさらに続けた。

「ほら、ママの妹の奈美ちゃんて覚えてる?ずっと音信不通だったんだけど、昨日Facebookから連絡があってね、今福岡で仕事してるんだけど、人手が足りないから誰かいないかって考えてたら、慶ちゃんのことピーンと思い出したんだって」

「奈美ちゃん?あ、奈美おばさんだっけ?確か母さんの1番下の妹、俺は会った記憶もないけど… ってか、なんで俺なの?」

睡眠を妨げられたのと唐突すぎる話に慶次郎は少し強めの口調で母に尋ねた。

「なんかね、今やってる仕事は重要で秘密厳守だから信頼できる身内がいいんだって。

それにね、お給料もけっこう出してくれるらしいわよ」

給料が高いと聞いて一瞬心が動きかけたが、やはり考え直した。

「重要で秘密厳守⁇だから身内がいいって言われてもさー…俺、奈美おばさんとはほとんど会ったこともないし、第一、身内だから信頼出来るって考えもどうかと思うよ⁈今の世の中親子でもっ…」

ここまで言った時点でいつも笑顔を絶やさない母が珍しく真剣な顔をして続きを遮った。

「慶ちゃん、そんなこと言わないの。たしかに奈美ちゃんは慶ちゃんがまだ2歳の頃に一度しか会ってないわ。でも、人見知りでママとパパ以外の人には寄り付きもしなかった慶ちゃんがなぜか奈美ちゃんには最初から懐いてニコニコ笑ってたのよ。奈美ちゃんが帰る時なんか、あなた大泣きでママ大変だったんだから!それを奈美ちゃんは覚えててくれてるのよ。それにね、ママにはわかるの。慶ちゃんはやれば出来る子だって!だって慶ちゃんはママの最高傑作だもの!」

母の滅茶苦茶な理論と子供可愛さの壮絶な思い込みに圧倒され、その場は「ちょっと考えるよ」と言って話を濁すしかなかった。


大学を中退し、バイトを転々としつつ、さらに高校時代から付き合っていた彼女にもフラれて、現実から逃げるように友達と遊び歩いては喧嘩で警察の厄介になった事も一度や二度ではない。そうやって毎日を悶々と過ごしている自分にとっても、決して悪い話ではない。が、いまいち乗り気になれないのは地理も勝手も分からない福岡で1人で行く…というのが22年間実家で甘やかされて育った自分には不安で仕方がないのだ。


翌日 慶次郎はその話題には触れず、母も何も言っては来なかった。

事件が起きたのはその夜であった。

珍しく慶次郎が夜も出歩かず、リビングでテレビを見ていると、父が仕事から帰ってきた。

すると、いつも寡黙な父が、帰ってくるなり突然 慶次郎に「働かないのなら出ていけ!」怒鳴り上げたのである。

慶次郎が驚きソファから飛び起きると、台所にいた母が呆然としてる間に父の右正拳突きが慶次郎の左頰をかすめた、瞬間 慶次郎のスイッチが入り 気づいたら父の胸倉を掴み、投げ飛ばす寸前だった!

実は、父は空手3段、慶次郎は柔道2段の格闘親子なのだ!

「2人ともやめてーーー!!!!」

母のこれでもかという高音の大声で、ハッと我に返り 父を掴んでいた両腕を離し、慶次郎は「ごめん…」と誰に言うでもなく呟いた。

父もバツが悪そうにチラチラ母を見ている。

「あなた、一体どうしたの?慶ちゃんの何が気に入らないの?」

と、母は言うが、自分でも父が何にキレてるかくらいわかる。高い入学金やら学費やら2年間も払ったあげく大学を中退し、仕事も続かず、挙句に夜な夜な遊び回る20歳過ぎの1人息子が俺だ。実直で真面目に仕事をしている父からすれば、許せないのも頷けるし、理解できる。 父も今まで我慢してきたのだ。その気持ちがわかるからこそさっき咄嗟に出た言葉が ごめん… なのだ。


次の瞬間、慶次郎から出た言葉は 「父さん、母さん、今までごめん。俺、福岡行って奈美おばさんのとこで働くよ」だった。



「慶次郎?」 空港の待ち合いロビーに足早で現れた女性は少し息を荒げながら訪ねてきた。 「そ、そうですけど… え?」 「ごめんね、来る途中で事故渋滞にハマっちゃって時間にまにあわなくて。待ったでしょう?もしかして来ないと思った?アハハ」

遅れてきた女性は照れ隠しなのか冗談ぽい口調で話しかけてくる。

「いや、って言うか… 待たされたのはいいんですけど、本当に奈美おばさんですか⁇」

「そうよ。まぁ20年ぶりだからお互いわかんないわよねー」


慶次郎が驚いたのは訳がある。奈美の容姿は慶次郎が写真で記憶している20年前の姿 そのままなのである。




ご覧頂きありがとうございました。よろしければご感想をお聞かせください。

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