魔法使い達
さくさくと、二人は草を踏みしめながら歩いていた。
クリスの話を聞いたロバートが、とりあえず休憩が必要だと彼の家に招待してくれたのだ。
「少し歩くけど、ここから馬車に戻るよりかは近いから」
(馬車の皆が心配しているんじゃないかな……)
そうは思うものの、ずっと飲まず食わずで正直もうへとへとである。
ありがたくロバートの招待を受けることにしたのだった。
(でも、どうして魔法で移動しないのかな?)
そんなクリスの疑問に、ロバートはクリスの歩調に合わせてゆっくり歩きながら答えてくれた。
「それはね、クリスにはかなり強い魔力があるからだよ」
「はい……?」
隣を歩くロバートの言葉にクリスは首をかしげる。
「もしかして、信じてない?」
ちらり、と目を向けられ、クリスは肩を小さくした。
(えっと、だっていきなり魔力とか言われても)
正直、謎だらけだ。
「あの、魔力ってなんですか?」
クリスの質問に、ロバートは驚いたようだった。
とんがり帽子の下から覗く、綺麗な碧色の瞳がまじまじとクリスを見つめる。
「……そっか。クリスは魔術を習って無いんだもんね。ごめん、僕が悪かったよ」
そんなに妙なことを聞いたのかな、と不安になっていたクリスは、ロバートに謝ってもらえてほっとした。
ロバートは噛み砕くように説明する。
「魔力っていうのはね、簡単に言うと、魔術を使うためのエネルギーかな」
「えねるぎー?」
「うん。物を持ち上げるには、腕や肩の力が必要でしょ? それと一緒で、魔術を使うには魔力が必要になるんだよ」
ーー魔術を使うための力が《魔力》
「はい、覚えました!」
クリスが元気よく答えると、ロバートはまた目を丸くして、それから恥ずかしそうに頬をかいた。
「……なんだか先生になった気分」
先生。
ロバートのつぶやきに、クリスは背高のっぽの魔法使いを見上げた。
(ロバートさんが先生なら、きっと授業も楽しいだろうな)
だが、クリスは魔術学校に行くことになっている。
(せめて今のうちにいろいろ教えてもらおうかな)
クリスはずっと気になっていたことを聞いてみた。
「さっき、あの、不思議なことがたくさんあった事を話した時、どうして謝っていたんですか?」
「ああ、それ」
ロバートは苦笑とともに、肩をすくめた。
「実はね、それ全部僕らの張った結界の影響だと思うんだ。ごめんね」
「……?」
クリスがきょとんとしていると、ロバートは詳しく言うとね、と話し出した。
「この森が゛迷いの森″と呼ばれているのは知ってるかい? それはね、このグリービーウッドに魔法がかけられているからなんだよ」
「この森全部に、ですか?」
クリスは周囲をぐるりと見回した。
グリービーウッドの森は、すごく広い。
クリスが暮らしていた村が丸ごと入ってしまうくらいだ。
(こんな大きな森に魔法をかけるなんて)
「それって、すごく大変なんじゃないですか……?」
クリスの言葉に、ロバートはのんびり頷いた。
「一人だと大変だろうね」
「ほかにも誰か、いるんですか?」
「うん、まあね。家についたら、ちゃんと紹介するよ」
笑顔で頷いたロバートは、次いで心配そうにクリスを見た。
「あと少しだから、頑張ってね? 本当は風で移動したほうが早いし楽なんだけど」
クリスが張り出した木の根を乗り越えるのに手を貸して、ロバートは続きを話す。
「今日はなんだか、精霊が妙に騒いでいるんだよね。僕だけならともかく、クリスは魔力が高いから、また精霊が悪戯するかもしれないし……」
「……? どういうことですか?」
魔力が高いと駄目なのかな?
クリスはきょとん、と首をかしげた。