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迷いの森の隠者たち

 ほうほうと、梟が鳴いている。


 暗い森の中、一人の少女が力無い足取りで歩いていた。

 年は十歳前後。

 短く切り揃えられた黒髪はぼさぼさで、一張羅らしき服も薄汚れてしまっている。

 さらに、膝小僧についた泥や、あちこちにある擦り傷。

 少女が難儀をしていることが一目でわかる姿だ。

 しばらくふらふらと歩いた後、少女は途方に暮れた表情で辺りを見回し、溜め息をついた。


「……お腹すいた」


 少女の深い緑の瞳に涙が浮かぶ。

 気力がつきれば動く力も無くなってしまう。

 少女はふらりと一本の木に近寄ると、その根元にずるずると崩れ落ちるように座りこんだ。


 夜の森はひどく静かで薄暗い。

 木々の隙間から差し込む月明かりだけが、辺りを淡く照らしている。


 ふと、この森にまつわる噂話が少女の記憶に蘇った。

 ーー迷いの森。

 少女が立ち寄ったバーツ村では、このグリービーウッドの森のことを、そう呼んでいたのだ。

 ……それも、恐ろしい噂のある森として。


「た、確か、誰も住んでいないはずなのに、灯りが見えたり」


 少女はごくり、と喉を鳴らした。

 まさか、と思いつつもその瞳は落ち着きなくさまよい、辺りを窺うように見回し始める。

 どうしてなのだろう。

 一度気にしてしまうと、そればかり思い出されてしまうのは。

 先ほどまでは夜の暗さも気にならなかったのに、不安が足元から忍び寄ってくる。


「あと、なんだっけ……」


 さらに少女は村のおかみさん達から聞いた話を思い出した。

 ーー若い男の亡霊も出るらしいよ。

 噂話を思い出した時、不意に強い風が吹いた。


 ーービュウゥゥウゥ


 風は草を巻き込みながら渦を巻き、小さな竜巻と化す。

 枯れた草の色。

 薄い黄緑色が大きく翻ったかと思うと、どこか間の抜けた声が上がった。


「ーーあれぇ?」


 とぼけたつぶやきをもらしたのは、まだ若い青年だった。


「!?」


(ひ、人がいきなり出てきたっ!?)


 さてはこれが噂の亡霊か、と少女は青ざめる。

 だが、青年には立派な足がちゃんとあった。


(じゃあ、お化けじゃないのかな?)


 冷静なのか、恐怖のあまり麻痺しているのか、少女がそんなことを考えている間に、風は止んでいた。

 残されたのは、少女と枯れ草色の服を着た青年のみ。

 風を纏って突然出現した青年は、碧色の瞳で少女をしげしげと見つめた。


 月明かりに浮かび上がるその姿は、長い金髪をひとつ結びの三つ編みにした、端正な容姿の青年。

 しかし、黄緑色のくたびれたローブと同じく黄緑色のとんがり帽子を身に付けている。

 そんな不思議な格好をした青年は、どこかのんびりした様子で首をひねった。


「君、人の子だよね? おかしいなあ、ここに入り込むなんて、どんな高位の精霊かと思って見に来たのに」


 枯れ草色の青年は、よくわからないことをつぶやいた。


「……」


 少女は、青年に見つめられるうちに、なんだか泣きたくなってきた。

 

(疲れたし、お腹もすいたし、よくわからないことばかり起こるし)


「あれ? どうしたの?」


 青年がのぞき込むように首をかしげる。


「……う」

「う?」


 きょとん、と繰り返す青年。彼を見上げる少女の目が潤んだ。


「えっ!? ちょ、ちょっと!?」

「……うわああああーん!!」


 次の瞬間、盛大な泣き声が響き渡る。


「ええっ!? な、なんで泣くの!?」


 いきなり泣き出した少女に、枯れ草色の青年が慌てまくるが、緊張の糸がぷつりと切れた少女はひたすら泣き続けたのだった。

 



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