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合言葉

力尽(ちからず)くで外へ連れ出してから、魔法で記憶をイジって、帰ってもらおう』


『そうだねタツヤ。子どもがこの先に進むのは、危険すぎる』


 ……そう。それがベストの筈だった。

 ハンナの言葉を聞くまでは。


『……おばあちゃんがね〝絶対に誰にも言っちゃいけない〟って』


 ハンナの()()おばあちゃんは、昔、この病院で働いていたらしい。


 〝合言葉(あいことば)が無ければ、最後の部屋には入れない〟


 その〝合言葉〟を聞いてしまったのは〝立派な勲章〟を胸に付けた軍人さんたちの会話から。

 彼らは度々(たびたび)、軍人には用の無いであろう、地下に出入りしていたという。


『きっと、1番奥の部屋に入るには、合言葉が要るんだよ!』


 ダニロが目をキラキラさせながら言う。


『ハンナ、その合言葉、わかるのか?』


『うん。でも、絶対誰にも言っちゃダメって、おばあちゃんに言われたから……』


 (うつむ)くハンナ。


『おいおい、そりゃ無いぜ! 教えてくれよ!』


 ライナルトに詰め寄られて、泣きそうになるハンナ。


『ちょっと、ライナルト! 無理に聞こうとしないで』


『そうだよ、ハンナが可愛そうだよ』


 と言いつつ、自分も、ちょっと残念そうなダニロ。


『じゃあさ、最後の部屋の前で、私たちは耳を塞ぐから、合言葉はハンナがこっそり言ってよ!』


 ラウラの言葉に、ハンナは、にっこり(うなず)いた。

 どうやら話がまとまったようだが……


「……ルナ、合言葉ってわかるか?」


『ごめん、わかんない。驚きの新事実だね』


 さらに、ルナの持つ〝精神感応〟は、栗っちのとは違い〝ルナを見る事が出来る者〟にしか使えないらしい。

 ハンナの心を読むことは出来ないな。


『彩歌さん、記憶操作で、合言葉を聞き出すって、出来る?』


「ハンナさんも、あれだけ(かたく)なに拒否してるし、ちょっと難しいわ。〝自白系〟の魔法を使えれば簡単だけど、私、持ってない……」


「しょうがない。最後の扉は、必殺〝アース・インパクト〟で……」


『ダメだよ! ここの仕掛けは色々と連動しているんだ。もし下手に衝撃を与えたら、何が起こるか、ちょっと想像がつかないよ』


 実力行使(ただのパンチ)は、ルナに止められた。


「うーん。それじゃ、4人には、一緒に行ってもらうしか無いか……」


 4人を危険から守りつつ進み、ハンナの合言葉で最後の扉を開けてもらう。

 そこから先は、その時の状況で決めよう。

 ……悪魔が居そうなら、一旦引き返すのもやむなしか。


『ねえ、タツヤ。あなた、日本のドコに住んでるの?』


 ……不意に、ラウラに声を掛けられた。


『神奈川って言う所だよ』


『へぇ。聞いた事ないけど、トーキョーの近く?』


『うん。東京は、すぐ隣さ。むしろもう、神奈川は東京と言っても過言じゃないね』


『……タツヤ。それは過言だ』


 そうだな。ツッコまれると思ったよ、ブルー。


『兄弟は居るの?』


『ああ。この前、同級生になったばかりの妹が1人……』


『なにそれ! タツヤって面白いわね!』


 って、あ、あれ?

 ラウラからの色々な質問に回答して談笑などをしていると、ライナルトと彩歌のご機嫌が、どんどん斜めになって行ってる気がする。

 駄目だ。このままだと何らかのアレの均衡が崩壊して大変な事になる!


『ラ、ライナルトたちは、このあたりに住んでるの?』


『おう。ここから自転車で30分ってトコかな』


 ……結構遠いな。


『4人は、幼馴染(おさななじみ)なの?』


 彩歌の質問に、顔を見合わせる4人。


『家が近くだし、同じ学校だし……』


 不思議そうな表情をするライナルト。


『昔っから一緒によく遊んでるよな』


 ダニロも、ごく当たり前の事を、思い出したように答える。


幼馴染(おさななじみ)って言い方、大人のヒトが使うよね』


 ラウラがクスリと笑う。


『うん。アヤカは、大人のヒトって感じよね』


 静かに呟くハンナ。

 鋭い! 正解だ。彩歌は元・大人の女だからな。おっといけない。口にしたら解体(バラ)される。

 ……しかし、そうか。子供の頃って、〝友達〟っていう(くく)りはあったけど、〝幼馴染〟っていうのは、大人になって初めて気付くのかもしれないな。26歳視点の僕から見れば、大ちゃんや栗っちは〝幼馴染〟だけど、彼らには、僕は〝友達〟なんだろう。


『ふふ。4人は仲良しなのね』


 子ども達は、彩歌の言葉に、また顔を見合わせる。そして4人とも、ほぼ同時に、それぞれの言い回しでJa(うん)と言った。






 >>>






「カンッ!」


 壁の隙間(すきま)から飛び出してきた矢を、ハンナに当たる直前に、自分の体を割り込ませる事で防ぐ。

 あっぶない! 間一髪だ。

 同じように、反対の壁からダニロに向かって飛んで来た矢は、彩歌が伸ばした腕に当たってポトリと落ちた。

 子ども達は音に反応したが、あまり何も考えずに、更に先へと進み始める。


『つまんないなー! 何も起きないじゃないか』


『そうだよね! ちょっとピンチになる位が面白いのに』


 ……次々と、罠に引っ掛る子ども達と、それをギリギリで防ぎ、無かった事にしていく、僕と彩歌(あやか)

 〝ちょっとピンチ〟どころか、お前ら、さっきから〝崖っぷち〟なんだぞ?

 正直、ルナが居なければ、大惨事になっていただろう。


「それにしても、なんでお前、ここの事をこんなに詳しく知ってるんだ?」


 彩歌の頭に、チョコンと座っている、ルナに聞いてみた。


『ううん。僕は、この場所に詳しいってわけじゃないんだ』


「どういう事だよ? 罠の位置とか仕組みとか、隠し扉の場所も開け方も、全部知ってるじゃないか」


『僕は、世界中の魔界の門への道案内を、スイスイっと出来るように〝門に辿り着くまでの情報〟を知る事が出来るんだよ』


 例外もあるらしい。今回、この場所で〝魔法が使えない〟という事を、ルナは知らなかった。そして、最後の部屋の扉の鍵となる、合言葉も。

 そのせいで、僕と彩歌は、子ども達のお供をしているわけなのだが……


『お前ら、おっそいぞ!』


 ライナルトが、苛立(いらだ)った口調で叫ぶ。

 仕方ないじゃないか。お前の3歩ほど先にある、落とし穴の解除に、手間取ったんだから。


『ごめんね。面白そうな物がいっぱいでつい……』


 彩歌がウインクして謝る。


『し、仕方がないなあ。(はぐ)れるなよ?』


 ちょっと照れた感じになる、ライナルト。

 あ、今度は、それを見たラウラが苛立ってるな。


『残りの隠し扉は5つ、罠は43だよ。その中で、引っかかる可能性があって、さらに致命的な物は、11。楽勝だね!』


「おいルナ。お前、さっきも〝楽勝だ〟とか言ってたけど、あの4人、全部の罠に引っかかりに行ってるぞ?」


『その苦情はあの子たちに言ってよ……なんでわざわざ、重箱の隅を突付くかなあ』


 ルナは、最初の隠し部屋を出る時、罠は300以上あるけど、引っかかりそうなのは100も無いから楽勝だ。とか言っていたが、子ども達は結局、200を超える罠を、狙ったかのように、見事に踏みに行っている。


「でも達也さん。あの子達、隠し扉も、ほぼ全部見つけてるわ」


 そうなのだ。開け方はルナから教わって、少し手助けしているけど、扉の場所は4人の内の誰かが見つけてしまう。子どもって凄いなぁ。


『ライナルト! この先に何があると思う?』


 ダニロが、テンション上げ上げで尋ねる。


『そりゃあ、お宝だろ! こんなに苦労したんだ。金銀財宝がザックザクだぜ、きっと!』


 一番苦労しているのは僕なんだけどな。

 上から降ってくるトゲトゲとかを、何回体を張って受け止めたか。

 っていうかさ……お前ら気付けよ。


『タツヤ、気付かれてはマズいのだろう?』


「そうだった。生死に関わるような罠があると知ったら、最後の部屋まで行ってくれないかもしれないもんな」


「少なくとも、女の子2人は、帰っちゃうと思うわ」


「そりゃマズい。気付かれないように頑張ろう。もう少しだもんな」


「達也さん。女の子が帰っちゃうのがそんなに嫌なの……?」


 何とも言えない表情の彩歌。こ……怖い!


「いやいやいや! じゃなくて、合言葉は、絶対に必要だもんな!」


「ふーん?」


 気をつけよう……罠のスイッチを踏むより、彩歌のスイッチを踏む方がよっぽど危険だ。






 >>>






『おい、これが〝最後の部屋〟の扉じゃないのか?』


 43の罠を全て体を張って無効化し、やっと辿り着いた場所。

 長い長い廊下の先に、今まで見た事もないぐらい、大きくて頑丈そうな扉があった。


「ルナ、ここが最後の部屋なの?」


『そうだよ彩歌。この中に、魔界の門がある』


 ……っていうか、こいつら結局、全部の罠に引っかかったぞ?!

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