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覚醒

 実験体の顔を(おお)っていた水が、消えていく……


「……これは熱気?!」


 熱い! もしかして、体温を上げて蒸発させてるの?


「だとしたら……人知を超えてますね……」


 そう。人知を超えている。

 ブルーさんが大ちゃんによく言っているけど、人間の英知は、なんて物を作り出したんだろう。

 ……顔の周りにあった水を、ぜんぶ蒸気に変えたあと、実験体は悠々と大きく息をついて僕をにらむ。

 ちょっと怒ってる……よね?


「ガルルル……」


 この子は、瞬発的に体温を上昇させることが出来るんだね。しかも、信じられない温度に。

 ……もしかしたら、ケージを破壊したのも、この力を使った技なのかな?

 実験体の発していた熱気は消えた。けど、代わりに殺気が高まっているよ。

 ほら、ジリジリと頭を下げつつ後退していってる。これってきっと、後ずさりじゃなくて、飛びかかるための間隔を開けてるんだよね。


「ちょっと困りましたね」


 ……そういえば、たっちゃんに、


 〝敵の心臓とかを念動力で握りつぶしちゃえばいいんじゃない?〟


 と、言われた事がある。

 そうだよね。それが出来れば最強なんだけど。

 ……実は、生き物の〝体の中〟には、念動力は入っていけない。

 建物とか、機械とかは、中から色々と出来るのに、不思議だよね。

 だから、この子も、念動力では、体の表面しか触れることが出来ないんだ。

 可哀想だけど、縛る・止めるじゃなくて、打撃・射撃をしなくちゃならないかもしれない。

 念動力による攻撃も、物理攻撃と同じで、加速すればダメージが大きくなる。縛るより切り裂く、止めるよりぶつける方が、大きな力を加えられるみたい。けど……


「生物を攻撃するのは……初めてです」


 仕方ないよね……実験体を野放しにすれば、大勢の人が犠牲になってしまうから。

 僕は両手を前に差し出して、念動力を、自分の前に集中した。

 1つ、2つ、3つ。

 目には見えない力の(かたまり)を並べていく。

 時を同じくして、実験体が頭を床スレスレまで落とした。来るよ!

 僕は連続で、5発の念動力を発射した。

 タタタタタン! と、弾けるような音が鳴り響き……今まで実験体が伏せていた場所に、5つの穴が開く。


 「?! 外し……!」


 次の瞬間、背後に、気配(けはい)を感じた。

 振り向く間もなく、背中に衝撃が走り、そして目の前には、壁。

 直後、僕の視界と意識は、黒く塗りつぶされた。






 >>>






『……い……ずや』






 ん……。






『めざ……か……』






 だれかの……声が……聞こえる……






『目覚めなさい、和也』






 ……誰?




貴方(あなた)(みちび)く者です』




 僕を導く……?

 もしかして、神様?



『少し、違います。むしろ、神に最も近いのは、貴方です』



 僕、どうしたんだっけ……



『貴方は、攻撃を背中に受け、壁に激突したのです』



 ……そうだ。僕、負けちゃったんだ。


『いえ、まだ終わっていません。貴方は、自分が〝終わっていい〟と思うまで、命を落しても、よみがえることが出来るのです』


 そう言えば、ブルーさんがそんな事を言ってたよね。

 ……でもさ、あの子、ちょっと強すぎるよ。僕じゃ、止められそうにない。


『それなら、貴方は力を(ほっ)するだけでいい。貴方は理不尽なほどの力を持つ、救世主なのですから。貴方は、あの〝哀れな者〟を、どうしたいですか?』


 救いたい。


『あれほど、怖い思いをし、酷い事をされても、貴方は、まだ、あの者を救いたいのですか』


 勝手にあんな姿にされて、こんな所に閉じ込められて……可哀想すぎるよ!

 僕は……僕は……!


「あの子を救いたい!」


 突然、体の感覚が戻ってきた。

 ……内から、外から、どんどん力が溢れてくる。


『……今の言葉が。貴方の慈愛の心が。〝目覚め〟を大きく進めたのです。さあ、貴方の望むようになさい』






 >>>






 目を覚ますと、実験体は僕にのしかかり、鋭い爪を突き立てようとしていた。

 ヘルメットが割れてはじけ飛ぶ。

 何度も攻撃されたのだろう。アーマーは波打つのをやめ、いたる所に亀裂が入っている。

 

「……ありがとう、大ちゃん。おかげで痛くなかったよ」


 僕の中に、今までにない〝力〟が芽吹いているのがわかる。

 たぶんこれは僕が、一歩、神様へと近付いた(あかし)

 僕は実験体を、念動力ではなく〝腕力〟で跳ね除けた。

 数メートル吹っ飛んで、ゴロゴロと転がる実験体。


「ゴメンね、ちょっとまだ、力加減がわからないんだ」


 ダメージが大きすぎたみたい。

 すっごくカッコいいエフェクトと共に、変身が解けてしまった。

 ……あんなにボロボロになっても、そこはちゃんと機能するんだ。


「ガアッ!」


 実験体が飛びかかってきた。

 さっきまでは目で追うことも出来なかったのに、完全に動きがわかるよ。

 ……というより、スローモーションだね。

 僕は、実験体のほっぺを、引っ叩いてやった。

 

「ギャフン!」


 意外と可愛い声をあげて、真横にすっ飛ぶ。

 ゴロゴロと転がって、やっと起き上がるも、何が起きたのか理解できない様子の実験体。

 ……こちらに向き直り、威嚇しながら、じわじわと近付いてくる。


『もうやめよう。キミは、僕には勝てないよ』


 精神感応で話しかける。

 ……たぶん通じるはず。何となく分かるんだ。


『……る……い』


 ほらね、反応があった。今なんて……


『うるさい! だまれ!』


 実験体は、再び襲い掛かってきた。

 僕は、もう一発、さっきとは逆のほっぺを引っ叩く。

 ……今度は当然、逆の方向にすっ飛んだよ。

 僕、自分ではゆっくり動いているつもりなんだけど、どうやらあの子は、僕の動きを目で追えてないみたい。

 僕が急に強くなった事を〝体感〟していても、頭ではわかっていないんだね。

 実験体は、まだ僕の方を(にら)んで、飛び掛かろうとしているよ。


『ね、わかったでしょ? 大人しくすれば、なにもしないから』


『ゆるさない! ゆるさないぞ! よわいにんげんのくせに!!』


 ダメだ。

 まだ向かってくる。


「うーん……このままだと、大ケガさせちゃうよ。どうしよう」


 攻撃を避けながら、ふと辺りを見回すと、実験体が閉じ込められていたケージが目に入った。


「そうだ! アレを使って……!」


 大きくて頑丈なケージの鉄格子を、念動力で全部引っこ抜いて、目の前に、ズラリと並べる。

 さっきは全然曲げられなかった鋼鉄の棒が、水飴のように柔らかいよ。

 グニャグニャと丸めて引き伸ばして……

 よーし、できた! 〝実験体〟そっくりの〝像〟を作ったよ。


「えへへ。工作は得意なんだ」


 ……特に、鉄細工は。

 中は空洞で、大きさは実物とだいたい同じ。

 なかなかカッコ良くできたよね。


『…………』


 途端に、実験体の動きが止まった。

 鉄像を見て、じっとしている。そして……


『すごい! すごい! これ、ぼくだよね!』


 喜んだ。


『わぁ! すごくかたいのに、こんなのつくれるって、すごい! すごいね!』


 ほめられた。


『もしかして、ぼくをいじめにきたんじゃないの? それじゃ、あそぼうよ!』


 なつかれた。


『うん。遊ぶのはいいんだけど……キミ、お腹空いてないの?』


 えっと……お腹を空かせて、ケージを破ったんだよね?


『ううん。ごはんは、きょうもちゃんとたべたし、だいじょうぶ』


『食べたの?! どういうこと……?』


『くろいにんげんが、まいにちここにきて、ごはんをくれたよ?』


 黒い人間? ……戦闘員かな?


『えっとね、〝そのうち、だしてあげるから、おとなしーく、しててくんない?〟 っていってた』


 えー?! 戦闘員はそんな事は言わないよね?

 ……いったい誰だろう。


『ねえ、そんなことより、あそぼー!』


『……ああ! もしかして、退屈だったから、ケージ壊しちゃったの?』


『ふふ。ばれちゃった。だって、ひまだったんだもん!』


 驚いた。まるで無邪気な子どもじゃないか。

 どうにかして助けてあげたいよね……


『でも、キミ、ちょっと大きすぎるんだよね』


 この子を連れて行ったら、みんなビックリしちゃう。

 お母さんなんか、ひっくり返っちゃうよ!


『うーん。おおきいとあそべないの? じゃあ、ちょっとまってね』


 実験体は、身震いひとつすると、みるみる小さくなっていく!


『これでどう?』


 すごい! 普通のネコさんのサイズになっちゃった!

 ……うん! これなら、連れて帰っても大丈夫だよね!

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