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奇遇

「まずはお礼を言わせて! 本当にありがとう」


 女の子はペコリと頭を下げた。


「私は、藤島彩歌(ふじしまあやか)。聞きたいことがいっぱいあるけど、私の方から先に説明するわね」


 女の子……彩歌は、その場でクルッと回り、呪文を唱えた。


「HuLex Thel cloT Ne」


 血まみれで穴の空いたサイズの合わない服が、一瞬で、ダウンジャケットにワンピースという可愛らしい服装に変わる。


挿絵(By みてみん)


「これが、魔法よ」


「ブルー……魔女っ子って本当にいたんだな」


『タツヤ。先程の火球や黒い球は理解できるが、今のはどういう仕組みなのだろう』


 驚いている僕とブルーに、彩歌がニッコリ微笑む。


「私は魔道士。そしてさっきのヤツは魔界の住人。悪魔と呼ばれる生き物」


 あの奇妙な生き物は、やっぱり悪魔だったんだ。

 ……超、悪魔っぽかったもんな。


「私たち魔道士は何世紀も前から、悪魔達とずっと戦ってきたわ。今回のヤツは、私の家系に代々伝わる〝秘術〟を狙って来たの」


「秘術?」


「そう。気が遠くなる程の年月を費やしても、未だ完成していない、究極の魔法」


 究極の魔法?!

 僕はゴクリと息を呑んだ。


「不老長寿の秘術よ」


「ごめんなさい。それもう、やっちゃった……」


 思わず謝ってしまった。


「え? 何?」


「いや、とりあえず後でちゃんと説明するよ」


 あとで順を追ってキチンと説明してから、土下座しよう……


「とにかく、私は突然襲われて、弱体の魔法を受けてしまい、逃げるしかなかった」


 弱体魔法もあるんだ。RPGみたいだな


「さらに、怪我を負ってしまった私は、なんとかアイツの追撃を振り切って、救急車を呼んだところで意識を失ったの。うまく逃げ切ったと思ったんだけど……」


「……ここまで追ってきたアイツに襲われたんだな。そういえば、先生と看護師さんが意識を失ったままだった。あの悪魔め……ひどい事をしやがる」


「お医者さんと看護師さんを気絶させたのは私よ」


「なんでさ?!」


『タツヤ、下手に抵抗すると危ないから、だと思うぞ』


 やるな、ナイス推理だブルー。


「うん。先生はあんな怪物を相手に、私を守ろうとしてくれた」


 すごいな。カッコイイじゃないか、先生! ……結局、ツイてないけど。


「先生達に魔法をかけた時点で、私の魔力は、ほとんど空っぽになっちゃった。諦めかけた時に、貴方達が入ってきたの」


 危ない危ない。ギリギリのタイミングだったんだな。


「それにしても、どういう仕組みなの? 私、魔力もほとんどゼロだったのに、もう完全に回復してる……」


『私の欠片(かけら)が、エネルギーを必要な形に変換して供給しているんだ』


 ブルーが得意げに言う。


「かけら?」


「それについては、僕からちゃんと説明するよ……えっと」


 僕が心臓の修復の話をしようとした時、扉の外から僕を呼ぶ声が聞こえた。


「達也! お前、まさか中にいるのか?」


 父さんだ。僕の声、外に漏れてたんだな……どうしよう……!


「すみません先生、入りますよ……」


 母さんの声だ。手術中のランプがついてる時は入っちゃ駄目だぞ?!

 ……まあ、手術は僕の手でとっくに終わって、術後の説明をするトコだったんだけど。


「失礼します!」


 扉がゆっくりと開く。ヤバイ。入ってきちゃダメだ……! 部屋中メチャクチャだし、先生たちはノビてるし、女の子は妙にカジュアルだし、色々と説明できない!

 手術室に入った父さんと母さんは、辺りを見回して唖然としている。ああっ! 終わった。何もかも終わった……!


「おい達也! 一体これはどうなってるんだ!?」


「ちょっと……何なの……?」


 うおお! 最悪だ。違うんだ父さん! 悪いのは悪魔なんだ。やっぱりパンチよりキックにしておけば良かった! いやそれは関係ないか……


「HuLex UmThel PaRAlis iL」


 突然、彩歌が呪文を唱えた。

 手術室の惨状を見て立ち尽くす父さんと母さんを、青白い光が照らす。

 次の瞬間、二人はほぼ同時に膝をつき、ゆっくりと床に倒れ込んだ。


「ごめんなさい、とりあえず眠ってもらった……」


 うわわ。生で見ると意外と過激ね。先生と看護師さんも、この魔法で気絶してるんだな。


「いや、ありがとう。助かったよ……あ、紹介するね。僕の両親だ」


「やだ……! 本当にごめんなさい!」


 顔を真っ赤にして、申し訳無さそうにする彩歌……かわいいな。


「それより、この魔法を、なぜ悪魔に使わなかったの?」


「えっとね……私、アイツに弱体化されたって言ったでしょ?」


 ああ、そういえば言ってたな……


「かなり上級の悪魔だったけど、この体になる前だったら、多分、アイツに効く魔法もいっぱいあったの」


 この体に? 言い回しがチョット引っかかるが……


「でも、子どもの体では、ほとんどの魔法がレジストされてしまった……」


 子どもの体……?


「まさか、彩歌……さん? 弱体魔法って、もしかして……」


「……達也くん。私ね、実は貴方より、ずっと歳上なの」


「年上?」


「HuLex Thel STaTs Ne」


 彩歌は、また何かの呪文を唱えた。


「今のは、自分の能力を詳細に知る事が出来る魔法よ……やっぱり。かなり戻されてる」


 少しうつむいて、悲しい表情の彩歌。


「年齢的に、弱体化……! 子どもにされたの……!?」


「そう。アイツが使ったのは、すごく高度な魔法。解呪も出来ない」


「若返りの魔法を使えるヤツが、不老長寿を欲しがるんだ」


「弱体化したら意味ないもの。悪魔は人間より遥かに長生きだけど、魔法を極めるのが目的の悪魔には、それでも、寿命は短すぎるの」


 なるほど。永遠に魔法を極め続けたいと。なかなか勤勉じゃないか、悪魔。


「それにしても私、11歳になっちゃったのね……」


 さっきの魔法で自分の年齢を確認したのだろう。彩歌はため息をつく。


「奇遇だね。僕も11歳だよ」


 僕の言葉に、彩歌は少し寂しそうに笑う。


「ふふ。でもね、私、貴方より 随分お姉さんよ? いえ、11歳の男の子から見れば、おばちゃんかもね……」


 精一杯の作り笑顔で、こう続ける。


「だって、15歳も若返っちゃったんだから」


「……ほんとに奇遇だね。やっぱり同い年だ」

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