自己紹介
僕は急いで、ブルーの欠片で出来た心臓を、女の子の傷口に押し込む。
青く透き通った心臓に血液が満たされ、赤く脈打ち始めた。
コブシ大の穴はみるみる塞がり、顔色が良くなっていく。
「……ナニ……を……シた……バカナ」
悪魔はもう動けない。信じられない光景を見せつけられ、ただ驚くだけだ。
「ブルー。上手くいったんだな?」
『うん。もう大丈夫。造血もうまく出来てるし、しばらくすれば血流が無くても直接欠片から体中にエネルギーが届くようになるよ』
女の子は助かった。良かった……本当に良かった!
……ただ、やはり気になるのは。
「で、この子、どうなるんだ?」
ブルーの言っていた〝僕と同じ様な特性を得てしまう〟というのは、どういう事だろう。
『今の融合の感じだと、この少女が得るのは〝不老〟と〝超回復〟。あと、そこそこの〝耐久性〟……かな』
「劣化版・僕?」
『そうだね。君が今後得るであろう様々な特殊能力も、特定はできないが5~6%ぐらいは取得すると思う』
やっぱり凄いじゃん。ブルーの欠片。拾っといてよかった。
『……あ、それから、私を認識出来るようになるだろう』
ブルーが見えるようになるのか?
それはちょっと微妙だな。右手とか、自分で見ててもわりと気持ち悪いし。
『……気持ち悪くないよ? むしろキレイだし、カッコイイよ?』
ブルーの自尊心を傷つけてしまったようだ。確かにもう少し見慣れればカッコイイかもね。
『キレイだしね?』
「はいはい。キレイだよ」
どんだけ自分好きなんだよ。僕にキレイと言われて、ブルーは心なしか満足げだ。
『……ただ。不老は辛いぞ、タツヤ』
と、急に暗い口調でつぶやくブルー。
そういう話はよく聞く。
例えば、周囲の人たちが、みんな年老いて逝ってしまう悲しみに耐えられなくなるとか。
……もしかしたら僕は、この子にとんでもない事をしてしまったのかもしれない。
まぁ僕は、キツくなってから考えることにしようと思っているんだけど。
「私……どうなったの?」
女の子が目を覚ました。服が破れているのに気付き、慌てて両手で隠す。そういえば胸部だった。僕も慌てて目をそらす。
それにしても……
今まで気づかなかったが、ゆったりした服装だ。というか、上から下までブカブカじゃないか。まるで大人の服を急いで着て来たような……
そして、かなりの美少女だ……まあ、それに関しては初めて見た時に気付いていたが。
肩まである長い髪にくりっと二重の瞳。大人になったら、絶対、美人になるぞ。
「……あ、そういえば〝不老〟って、まさか僕たちずっとこの歳のままなのか?」
永遠に小学生? それはちょっと困るな。
『心配は要らない。肉体が完成するまでは普通に成長するよ。そこから老いなくなる。人間で言うと、20歳~24歳くらいかな』
良かった。さすがにこの体のままだと色々と問題がある。
……この子が美人になるのも見てみたいしね。
「私、確かアイツに攻撃されて……」
女の子は、服に開いた穴を確認してこちらを見た。
「あなた、これ、どうやったの? ……こんな強力な回復魔法、見たことない」
魔法……やっぱりそうか。さっきの悪魔も、結界とか魔道士とか言ってたし。
「それは魔法じゃなくてね。え~っと……何だっけ、ブルー?」
『自然の力、かな?』
「やっぱ凄いな、自然の力って」
不思議そうに、こちらを見ている女の子。
そして急に思い出したように辺りを見回す。
「……あいつはどこ?!」
部屋の端に転がっている悪魔の存在に気付いて、立ち上がろうとする。
「多分もう動けないと思うから大丈夫」
「ダメ! あいつは油断ならない!」
そう言うと女の子は小さい声で、聞いたことのない言葉を喋り始めた。
「HuLex UmThel FiR iL」
突然、女の子の頭上に小さい火の玉が現れ、次の瞬間、悪魔に命中した。
か細い断末魔と共に悪魔は炎に包まれ、やがて灰になった。
ペタンと座り込む女の子。やはりまだ、体力は完全に回復していないみたいだ。
「すごい。火が出た!!」
嬉しそうな僕。
『不思議な現象だ。何か特殊な方法で、自然界のエネルギーを操作しているのかな』
かなり興味ありげなブルー。
「魔法のこと、知らなかったのかブルー」
『私も全知全能というわけではない。意識が及ばない所は、この世には一杯あるんだよ』
「なるほど。まあ誰だって、居ない時に起きた事とか、寝てる間の事なんか知らないよな」
『そうだね。まあ地球は眠らないけど〝意識が向かない〟時とか場所はある』
「あ……貴方、その手、何なの?! なんで手と話してるの?!」
僕の顔と右手を交互に見て、驚く女の子。
ブルーの声にも、透けて見える右手にも気付いているようだ。
僕は右の手のひらを女の子に見せて、微笑んだ。
「自己紹介しようか。ブルー」
『やはり私を認識できるようになったね。私はブルー。地球の意思であり、地球そのものだ』
「僕は、内海達也。地球の寿命を延ばす、ボランティアをしてる」
『アハハ。タツヤ、それは面白いね』
女の子はちょっと不思議そうな顔をしたが、すぐに立ち上がって可愛らしい笑顔をみせた。




