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ルーツ

 地下の練習場。その真ん中に、円卓が用意された。周りに椅子が5つ、均等にせり上がる。


「こほん。えー、では改めまして」


 僕の土人形(つちにんぎょう)、大ちゃん、栗っち、彩歌(あやか)の分身がそれぞれ席につき、ユーリが立ち上がって、自己紹介を始めた。

 因みに、眠い目を(こす)りながら、彩歌本人もオランダで聞いている。円卓中央に置かれた、大ちゃんの変身ベルトの中のブルーの欠片(かけら)を経由して。


「私……えっと大波友里(おおなみゆうり)の一族は、光の速さでも2万4千年ほどかかるぐらい離れた〝惑星ウォルナミス〟から、1967年前に来た、あ、違った。年が変わったから1968年前かな。異星人の子孫なんだよ」


「そんな昔に、地球に来たの?! すごいねー!」


 身を乗り出して、目を輝かせる栗っち。


「ユーリの先祖は、何をしに地球に来たんだ? まさか観光とかじゃないよな」


 腕を組んだまま、少し口角を上げて、答えを知っている風の大ちゃんが、あえて質問する。


「やー、ちょっと言いづらいんだけど……」


「たぶんだけど……侵略、だよなー」


 大ちゃんがそう言うと、ユーリはちょっとだけ()()が悪そうに笑う。


「やははは……どうやら、そうらしいんだ。この星はその頃、全く未開の状態で、ご先祖様達は、植民星にするつもりでやって来たんだって」


 うーん。なんとなく僕も、そんな気がしてたんだよな。


『という事は、地球は今、ウォルナミス星人の支配下ってことなの?』


 彩歌がブルー経由で会話に参加する。目の前に分身が居るので、腹話術みたいに感じるな。


「やー、そうじゃないんだよなー。ちょっと複雑なんだけど、説明させてくれるかな」


 ユーリは、ウォルナミス星人が地球に来た時の事を話し始めた。

 2000年近く前とはいえ、高度な文明を持ったウォルナミスの船は、母星から地球まで、わずか4年で移動出来たそうだ。


「〝銀河法(ぎんがほう)〟っていうのがあってさー。この銀河内の星々の間で、幾つかの取り決めがあるんだよ」


 他の星を侵略する時は、時間を止めて、5対5の代表戦を行い、侵略者側が勝てば、その星を好きにできる。1万年以上も前からある法律なのだそうだ。

 侵略した側が負けた場合、それ相応の賠償と、その後20メーゼンの間……換算すると130年ぐらいの、不可侵が義務付けられている。この法律を破れば、銀河全体の星々から、逆に〝銀河法に乗っ取らない〟形での制裁を受ける事になる。


「時間を止められた時点で代表者を出せないような未開の星は、なす術もなく侵略される。地球もそうなるはずだったのさー」


 ところがここで、事件が起きた。


母星(ウォルナミス)が、侵略されたんだよ」


 はるか昔、惑星ウォルナミスは、()追随(ついずい)を許さない高い技術力と、個々の秀でた戦闘力で、周辺の星を次々に配下とし、辺境を植民星にしていた。


「地球の、もうチョット先に、すごく強い星があるんだよ。そこへ行く道すがらに、地球へ寄ったんだって」


 〝惑星オプラ・オブナ〟……そこに住む人々は温厚な性格だが、いざ戦いとなると最強の戦士へと変貌し、侵略を許さない。

 ウォルナミス星人は、その星攻略の足がかり……といえば聞こえは良いが、ちょっとしたつまみ食い程度に、地球を侵略しようとしていた。


「オプラ・オブナ攻略用に、船には最強の戦士5人と、それに次ぐ実力の、控えの戦士5人、それから、最新式のガジェットが予備も含めて12個、乗せてあった」


「なるほど……最高の戦力が、全部、母星から出払ってたんだなー?」


「そうなんだよー。でね、母星に攻めてきたのが、オプラ・オブナだったのさー」


 ウォルナミス星周辺の星々が画策し、オプラオブナに依頼して、ウォルナミスを攻略させたらしい。

 オプラ・オブナにしてみれば、攻められる前に直接攻撃できる、最良のこのタイミングだった。

 ……ウォルナミスの滅亡は完全に計画されたものだったのだ。

 計画通り母星は侵略され、王族は皆殺し。銀河の星々への支配権は失われた。


「そんなこんなでさー、攻略船はもう、パニックだよー」


 考えられない〝人的ミス〟だったらしい。

 致命的なトラブルが発生して、宇宙船は衛星軌道上から地球へ無防備に墜落。

 生き残ったのは、最強の戦士が2人と、控えの戦士が1人、そしてガジェット11個と少量の機材のみだった。


「ガジェットが頑丈なのはわかるけどさー、それを装備もしてない生身の状態で、3人も生き残るって凄くない?」


 確かに凄いな。

 けど、宇宙船を人為的ミスで落っことしてしまうウォルナミス人って、ちょっと〝パニックになったネコ〟っぽいよな。


「……で、落ちた先が、日本なんだね、すごいねー」


 栗っちの目の輝きがハンパない。昔ばなしを聞いている子どもの様だ。

 ……あ、昔ばなしを聞いている子どもか。


「でさ、その攻略船の写真を見た事があるんだけど〝まんま〟なんだよー、形が」


「まんま?」


「そうそう。まんま琵琶湖(びわこ)


 待て待て! あれって、お前の先祖が作ったの?!


「知ってたか、ブルー?」


『まさか。軟着陸(なんちゃくりく)されたなら気付きもするけど、湖が出来る程の落ち方なら、異星から来たとは思わないよ』


 そうだよな。某有名マンガの戦闘民族じゃあるまいし。


「で、そこからが問題なんだ。船が落ちる前にはもう、銀河法で定める通り地球の知的生命体に、わかりやすく〝宣戦布告〟しちまってたからさー」


 あらゆる言語に加え、サルにも分かる図解入りで、100か所以上の地域に、まんべんなく……

 メチャクチャ気まずいな……よくある〝悪役の末路〟のパターンじゃん。


「いくら最強のウォルナミスの戦士でも、3人とも瀕死の重傷だし、近付いてくる人間を見て、絶対に殺されると思ったんだよね。ところがだよー」


 地球人は、彼らを治療し、手厚く保護したらしい。まあ、やると思ったけど。お人好しなんだよな。僕等って。


「そんでね、地球人に助けられたご先祖様……最強のウォルナミスの戦士たちは、銀河の星々に宣言したんだ。〝この星は自分たちが守る〟って」


 ウォルナミス人は、地球の守護者となり、それから、2000年近くも、異星の侵略を阻んできた。

 戦いのたびに戦士は減り、ガジェットを失い、今、残されたウォルナミスの戦士はユーリだけ。そしてガジェットは……


戦場(ボード)は作れるんだけど、武装部分が壊れちまってさ……これじゃもう、戦えない」


 机の上に置かれたのは、勾玉(まがたま)だった。社会で習ったヤツだ。これが最後のガジェット。

 そしてその隣には、これも社会の教科書で見掛けたことがある、銅鏡(どうきょう)


「こっちが〝マーカー〟。敵は、これを目指して攻めてくるのさ。壊されたら、防衛失敗になっちゃう」


 戦士がいる場合、マーカーを持つのが決まりらしい。そして失えば、即、敗戦。


「次の予約は、3ヶ月ぐらい先だけど、ガジェットがこれじゃあ、もう……」


「あー、直せるぜ?」


「やー……ゴメンね。私の代で地球は侵略され……にゃ?」


「ちょっと見た感じ、時間操作に関する部分は無傷っぽいから、そんなに難しくないぜー」


 あまりの驚きに、動きを止めるユーリ。油断しすぎだ。耳出てるぞ。


「大ちゃん、それ、ホントかにゃ?!」


「んー、好きにイジっていいなら、もっとスゴイ性能に出来そうだな。俺に任せてみるか?」


 ガジェットをつまんで、指の先でトントンと(つつ)きながら、大ちゃんがにっこり微笑む。


「ユーリの戦い、これからは俺にも手伝わせてくれよ。もう絶対に、ユーリを傷つけさせないからなー!」


「す……」


「す?」


「好き! 大ちゃん、お嫁さんにして!」

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