その力は愛のために
ガロウズ星人の〝ヴォルフ〟は、大ちゃんの頭を片手で掴み、持ち上げている。
……気持ちの悪い含み笑いを漏らしながら。
「ククク。苦しいか? 頭が砕けそうだな」
バリバリという音が響き、とうとうヘルメットに大きな亀裂が入る。
『大ちゃん!』
『タツヤ。ダイサクは大丈夫だ。まだ生きている』
ヴォルフの右手にヘルメットを残し、仰向けに倒れる大ちゃん。
「おっと、落としてしまったな。死んだか? 子ザル」
……今まで隠れていた、大ちゃんの素顔が露わになった。
「たっちゃ……え?! だ、大ちゃん?! 大ちゃんにゃ?!」
「ユ……ユーリ、逃げ……て……くれ……」
「大ちゃん! にゃんで? にゃんで大ちゃんが?!」
「ほう。まだ息があったか。ではそこで、この娘の死にゆく様を見ているがいい」
ヴォルフは、くるりとユーリの方を向いた。
放り投げたレッドのヘルメットが、大ちゃんの前に転がる。
「くっ! ……や、やめろ」
「はあぁ? やめるワケないだろう。クックック!」
ヴォルフは背中から斧のような武器を取り出して、ユーリに近付いていく。
「いやにゃ! やめて! いやにゃあぁぁ!!」
「やめろ! やめろおおお!!」
必死で叫ぶ大ちゃんの前には、半壊したヘルメットと、ブルーの欠片が転がっている。
『そうだ。タツヤ、あるぞ。ダイサクとユーリを助ける方法が』
突然、ブルーが思いついたように声を上げた。
『本当かブルー?! どうすればいい?』
『タツヤ、覚えているだろうか? 私の欠片には、膨大なエネルギーが蓄えられていて……』
『……! そうだ! どんな複雑なチカラも制御する事が出来る!』
僕は慌てて土人形を操作し、グラウンドに飛び出す。
「大ちゃん! ヘルメットを被れ! ブルーの声を聞いてくれ!」
ヴォルフが。ユーリが。そして大ちゃんが。一斉にこちらを見る。
「たっちゃん……!」
大ちゃんは、必至で手を伸ばし、目の前にあるボロボロのヘルメットを被った。
……無事でいてくれよ〝凄メガネ機能〟!
『ダイサク、聞こえるか?』
大ちゃんの目の前に落ちている青い欠片から、ブルーの声が響く。
『……あー。今日もいい声だなブルー。オランダはいい所だろー?』
よし、聞こえてる! 頼んだぞブルー!
『ダイサク、よく聞いて欲しい。今から形を合わせるから、私の欠片を、ベルトにセットするんだ』
パキパキと音を立てて欠片は変形していく。
彩歌の心臓に変化したように〝ベルトの制御基板〟の形に。
『……! なるほど、そうか……わかった!』
ベルト前面の〝複雑なシャッター構造〟の蓋が開き、中の基盤が取り出される。
そして、青く光るブルーの欠片が、ベルトの中に納められた。
『ベルトを通して、私の欠片のエネルギーが、直接ダイサクの体に供給される』
大ちゃんを青い光が包み込み、周囲の空間が陽炎のように揺らいでいるのがわかる。
『凄い! どうなってるんだブルー? スーツまで直っていくぞ!』
ベルトは普段の赤い光と、ブルー欠片の青い光が混ざり、紫の光を放つ。
みるみる内に、スーツの破れた部分は塞がった。
驚いたことに、破損した胸、腹、頭の装甲も、元に戻っていく。
『これは……ダイサクが新たな力を……! 凄いぞタツヤ。 今、ステータスを表示するよ』
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九条 大作 Kujoh Daisaku
AGE 11
H P 32 + 2048
M P 0
攻撃力 24 + 512
守備力 1001 + 2048
体 力 24 + 1024
素早さ 20 + 512
賢 さ 5882
<特記事項>
機械仕掛けの神 ← NEW!
超回復 ← NEW!
不老 ← NEW!
高耐久 ← NEW!
瞬間記憶
思考加速
過集中
バベルの司書
星の守護
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『機械仕掛けの神……?! ブルー、これって……』
『ダイサクは、新しい能力を手に入れたんだ』
大ちゃんは……いや、レッドは静かに立ち上がった。
呆然と見ていたヴォルフは、レッドに向き直り、斧を構える。
「な……何が起きた? お前、な、何をした?!」
「その娘を守るため、星の力を借りたのだ」
ピタリとヴォルフを指差すレッド。
「……お前は絶対に許さない」
「にゃあ……大ちゃん……」
レッドを見つめるユーリ。心なしか瞳が潤んでいる。
「ほざけ辺境のサルめ! もう一度ズタズタにしてやる!」
恐ろしいスピードで接近するヴォルフ。それを、微動だにせず待ち構えるレッド。
ヴォルフは斧を振り下ろす。しかし、もうそこには誰も居ない。
「何?! どこだ!」
完全にレッドを見失うヴォルフ。
後退りして、キョロキョロと周囲を見回す……その数センチ後ろにピタリとついていくレッド。
「さっきのローボとかいう奴は、ここを、こうイジっていたはずだ」
レッドは、背後からヴォルフの腰にある装置を操作する。
「何?! そ、そんな……何を?! ぐあああああああっ!?」
ボコボコと肥大化した後に、萎むヴォルフ。そして体の周りに光の膜が現れた。
「全力を出してもらわないとな。後で〝本気じゃなかった〟などと言われるのは困る」
「フゥー! フゥー! ヨくも……ヨクもやってクれたナ! コウなっタらもウ、おワリナんだゾ?!」
「〝終わり〟なのは知っている。お前の言っているのとは、違う意味でだが」
「グおオォォおあぁァ!! 死ネしねシネ死ネェェエェえェ!!」
さらにスピードを増したヴォルフ。土人形の目では、追うことが難しいレベルだ。
……だが、レッドはその攻撃の全てを、左手で軽く払い除けてから、こう呟いた。
「メルキオール・マリオネット、発動」
『Ready』
フォン! という無機質な音と、目に見えるはずのない〝威圧感〟が辺りを包んだ。
一瞬、怯んだように見えたヴォルフだが、不意に芽生えた己の恐怖心を認めたくない一心で叫ぶ。
「ころス……! コロシてやル!!」
やれやれ。そういう仕草の後、レッドは腕から飛び出した銀の筒を持ち、構えた。
「パープルブレード」
レッドブレード本来の赤い光が、ブルーのエネルギーと混ざって、紫に輝く。
「ふむ。違うな。お前が言うセリフは〝殺してやる〟ではなく……」
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……数分後。
圧倒的な力の差で勝利したレッドは、〝殺してくれ〟と懇願するヴォルフに、ゆっくりと止めを刺した。




