絶体絶命
※視点変更
九条大作 → 内海達也
僕の土人形は、掃除用具入れの影からグラウンドで繰り広げられている戦いを、ただ見ている。
戦闘能力の無い土人形ではどうすることも出来ないし、もし破壊されてしまったら、これから数日間〝内海達也は行方不明〟という事になってしまいかねない。
ユーリが倒れ、大ちゃん……レッドもピンチだ。
新機能〝メルキオール・マリオネット〟は凄まじい威力だが、相手はダメージを与えてもすぐに回復してしまい、決定打を与えられずにいる。
そして……このまま長期戦になると、ベルトの制御回路が保たないだろう。
「にゃー! たっちゃん、頑張って!」
「先程も言ったが、人違いだ。しかしこのままではマズい。コイツの出番か」
レッドは腕のボタンを押した。
おお! あれはサッカーボ……いや、例の大技だ!
「来い! レッドキャノン!」
だが待てよ? たしか前回あれを使った直後、動力源が煙を吐いて、制御基盤が焼けてしまった。
危険じゃないか?
『レッド、大丈夫か? それは負担が……』
『大丈夫だ、タツヤ少年。制御基盤には若干の改良を加えてある。一発撃つぐらいなら問題ないはずだ』
頭上に現れた武器〝ダイサーク・キャノン〟改め〝レッドキャノン〟を手に取り、構える。
「うおおおおおおお!!! ファイヤー!!!!!!」
勝負は一瞬で決まった。怪しくうねる光が、ゆっくりと敵めがけて飛ぶ、先程まで凄まじいスピードで動き回っていた敵は、なぜか動きを止め、そこに光線が直撃した。
「ローボ!? なぜ避けない!」
「私が引き金を引いた時点で、既に攻撃は命中している。奇妙に飛ぶ光は、ただの残像だ」
そこから一直線上にある、ジャングルジム、ブロック塀、向こう数十軒の家々や車など全てに丸い穴を開け、はるか向こうの山の麓に、火柱が上がる。
怪しい光は、まだジャングルジムの手前なのに。
「スゴいにゃ……! な、何でたっちゃんが、こんな武器を持ってるんにゃ?」
どうやらユーリは、レッドを僕だと思っているようだ。
「やれやれ。人違いだと何度言ったら分かるんだ?」
腕のボタンをもう一度押すと、レッドキャノンは空中に消えた。
時間が止まった時、大ちゃん人形も止まっていた。ユーリも、まさかレッドが大ちゃんだとは思わないだろうな。
「さあ。残るはお前だけだ! 降伏するなら命までは奪わないが?」
レッドは、片手で持ったブレードを相手に向けて構え、静かな口調で降伏を促す。
「むう。確かにそのガジェット、なかなかの性能だな。だが私が何もせず、ただ見ていたと思うのか?」
そういえば……なぜアイツは、一緒に戦おうとせずに傍観していたんだ?
「普通に戦っても負ける気はせんが、俺は合理主義者なんだ」
敵は、さっきの奴らのように腰の辺りの装置を操作して、ゴリマッチョモードにパワーアップした。
「フフフ。お前の弱点、隠しきれていないな」
速い! さっきまでの奴より明らかに速いぞ! レッドはギリギリでそれを躱している。しかし、敵の動きに違和感があるな。妙にレッドの背中から腰の辺りを狙っているような……
『こいつ、狙っている!』
……やはり狙っている?
『レッド、一体何を?』
『動力源だ』
そうか! 光学迷彩で隠している動力源と、そこからベルトに伸びているコードを狙っているのか!
「ハーハッハ、遅い! もらった!」
敵の攻撃で、ベルトと動力源を繋ぐコードが、ブツリと切断された。レッドの動きが極端に鈍くなり、レッドブレードの光が消える。これはかなりヤバイぞ!
「やはり、それが動力だったか。装甲の外部に重要な機関を置くなど、サルはやはり頑張ってもサルだな」
「く……クソ! 俺とした事が、マズったなー!」
「たっちゃん!? 大丈夫にゃ?」
ベルトにエネルギーが行かなければ、大ちゃんは、ごく普通の小学生だ。
レッドの装甲は多分ピストルの弾でも通さないだろうけど、あの敵……ヴォルフには対抗しようがない。
「お前は後で、じっくりと切り刻んでやる。先に、ウォルナミスの戦士を殺して、マーカーを頂こうか」
ヴォルフが、ユーリの方に向き直り、ゆっくりと近づいて行く。
ユーリは立ち上がることも出来ず、そのまま後ずさる。
「にゃあ……来るな! 来ないで! にゃあああ……」
「ユーリ!」
大ちゃんは、よろめきながらもヴォルフに近づき、後ろから、しがみついた。
「行かせない! ユーリ! 逃げろ! 逃げてくれ!」
「たっちゃん! たっちゃん!」
やはりユーリは起き上がれない。超回復が働かないのか、それとも、回復が追いつかないほどの怪我なのか。
役に立たないとは分かっているが、イザとなったら僕も!
『タツヤ、駄目だ。土人形を失うのはマズい』
『でもブルー! このままじゃ……』
「ほほう。なかなか見上げた根性じゃないか。そら、ご褒美だ」
ヴォルフは大ちゃんの腕を捻り上げ、ボディを蹴った。
「あぐう!」
ガラガラと、力なく転がる大ちゃん。胸部から腹部にかけての装甲が砕ける。転がり落ちるブルーの欠片。駄目だ、これで通信も出来なくなった。
「たっちゃああああん!! にゃああああ!!」
ヴォルフは、再びユーリの方に歩き始めた。
ユラリと起き上がり、またヴォルフに飛びかかる大ちゃん。
「ユーリ……に……げろ……」
「しぶといヤツだ。やはり先に始末するか」
大ちゃんの頭部を鷲掴みにするヴォルフ。そのまま片手で持ち上げる。ミシミシと赤いラインの入ったヘルメットが軋む。
「うあ! あがあああああ!!!」
「イヤああああ!! にゃああああああ!!!! たっちゃん! たっちゃん!!!」
『くそ、このままじゃ駄目だ! ブルー、僕も行くぞ!』
『いけないタツヤ。残念だが土人形では、彼を助ける方法が無い』
畜生! 一体どうすればいいんだ……!




