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「ブルー、さっきの黒い球、僕は何発で死ぬんだ?」


『キミと私は、まだ融合の初期段階だ。残念ながら、7619兆8712億2067万3979発で死ぬ』


「そっか、死んじゃうか」


 せいぜい頑張れよ悪魔。僕を殺すのは大変みたいだぞ。


「で、いま悪魔が、なんか唱えて作ってる赤い玉は、黒い球より強いの?」


『エネルギー的には、先程の黒い球体の3.81倍の威力だよ』


 ほほう、なかなか強いじゃない。


「じゃあ、あの赤い玉だと、僕、死んじゃうかな」


『単純計算だと、1999兆9661億9965万1963発で死ぬね』


 ……惜しい! もうチョイで2千兆だったのに。


「ゲーッゲッゲッゲ! さあ、食らうがいい!」


 悪魔の作り出した赤い玉は、鈍い光を放ち始めた。

 おっと、完成したのかな?


「ああ、だめよ! やめなさい……お願いだからやめて!」


 女の子が、肩で息をしながら僕の心配をしてくれている。

 ……自分も怪我で苦しいだろうに、優しい子だなあ。


「死ねぇええ!」


 悪魔の放った黒い球が、僕の腹にヒットした。

 女の子は、必死で僕に手を伸ばして叫ぶ。


「いやあああぁぁぁっ!」


 ……さっきと同じように、パン! という音だけ残して、赤い玉は消え去った。ちょっとチクッってしたけど、別に痛いわけではない。


「ゲーッゲッゲッゲ!! さあ、弾け飛べ! 粉々になって死んでしまえ!」


「あああぁぁ……!」


 妙なテンションで騒ぐ悪魔と、涙をこぼしながら悔しそうに床に両手をつく少女。


「……で、これって結局、なんなの?」


「弾け飛べッ! 弾けと……はぁああああ?!」


「……なんで?! どうして平気なの?!」


 悪魔も女の子も、僕を見て唖然としている。相当に驚いているようだ。


「今のをレジストしたのか? バカな! ニンゲンのガキが?!」


「あなたは、一体……?」


 ……さて。僕がすごく頑丈な事はわかった。絶対に死なないぞ、こりゃ。

 あれ? なんで服も無事なんだ?


『タツヤ、空気の乱れが全く無かった所を見ると、今の攻撃は、先ほどの黒い球体とは違って、生物以外を透過して進むようだ』


 へー。ある意味ラッキー! 服が破れたりしたら怒られちゃうもんな。

 ……じゃない。服なんかより、女の子の怪我の具合が心配だ。それに急がなきゃ、父さんと母さんがここまで来てしまうかもしれない。

 問題はあいつをどうやって倒すかだけど。


『タツヤ。とりあえず殴ってみてはどうだろう』


「おいおい。相手は悪魔だぞ。〝素手〟って……」


『キミは死なないんだし、ゾウやクジラでも、延々と殴れば、いつかは死ぬよ?』


 いや、その前に、いろんな保護団体が動き出しそうなんだけど……

 でもまあ、言われてみればそうか。とりあえずやってみよう。


「悪魔を保護してくれる団体は無さそうだし、大丈夫だろう」


『あはは、それはそうだね、タツヤ』


 って、おや? 悪魔が懲りずに、また赤い玉を作ろうとしているな。


「バカな……何かの間違いだ! もう一度食らえ!」


 鈍く光る赤い玉が、すごいスピードで僕に命中する。

 ……もちろん、僕には通じないんだけどね。あーあ、チクッとした。


「な? なぜだ! 一体どうなっている?!」


「よーし! あと1999兆9661億9965万1962発食らう前に、アイツを殴り殺さなきゃ。いくぞ!」






 >>>






 女の子は、怪我による出血と、驚き疲れのせいか、虚ろな表情で僕を見つめている。あ、チクッとした。えっと、これで137発目。僕は悪魔を淡々と殴っている。138発目。

 殴られた悪魔は無様に転がっては、体制を立て直し、律儀に赤い玉を作り続けている。


『タツヤ。私の計算では、あと12回殴れば、あの生物は活動を停止する』


 マジかよ! 弱っ! 拍子抜けだよ、悪魔。


『いや、キミが〝攻撃〟の意味で使う力には、凄まじい補正が掛かるんだ。融合が進んでいないので、今はまだ大したことはないが、最終的には〝地球をぶつける程の威力〟になるだろう』


「あ、なんだ、僕が凄かったのか」


 っていうか、ヘタに友達を小突(こづ)いたり出来なくなるな。気をつけよう。


「それにしても、僕はあの赤い玉、結局まだ4発しか食らってないぞ」


 あ、5発目食らった。お返しに悪魔の顔をぶん殴る。


「ぐぶうッ?! ぎ、ぎざま……いったい……」


 悪魔は、目を血走らせて睨んで来る。

 おー、怖い怖い。さて……


「残り11発か。あいつ、他の技は使わないのかな?」


『先ほど、究極がどうとか言っていたからね。よほど、この赤い玉に自信があるのだろう』


「ぬう……お前……何者……?」


 ああ、プライドってヤツか。なるほどね。はい、あと10!


「ぐはあッ!」


 ゴロゴロと転がる悪魔。なおも赤い玉を作ろうとする。


「まさか……お……前の……ような……ガキに……」


「ガキガキうるさい……ぞっ! と」


 アッパー気味なパンチがヒットして、悪魔がのけぞる。


「ぬがああ!!」


 のこり9発だ。もう悪魔は、赤い玉を作ることすら、出来なくなっている。


「ブルーさ? いま気づいたんだけど、これってキックのほうが効率良くなかった?」


『……すまない。タツヤ、その通りだ。34発少なく倒すことが出来ただろう』


「いや、別に良いんだけどさ……うーん。でも今さらキックに変えるって、ちょっと負けた感があるな」


 そう言って、悪魔を思いっきり蹴り上げる。


「ぐあああああ!!! おのレ……オノレエエエ!! ……こうなったら!」


『……いけないタツヤ。あの生命体の意識がキミから()れた。注意した方がいい』


「なんだって?」


『攻撃対象を、変更したようだ』


 まずい! と思った瞬間、悪魔は最後の力を振りしぼり、女の子の心臓に鋭い爪を突き立てた。


「しまった!!!」


 僕は悪魔に駆け寄り、思いっきり蹴り飛ばした。部屋の奥にある書棚にぶつかって転がり、青い体液を吐く。


「ゲ……ゲゲゲ……ザマアミ……ロ……」


 女の子の胸には(こぶし)大の穴が空き、血が大量に溢れてくる。

 これは……明らかに致命傷だ!


「なんて事だ……! 余裕かましてる場合じゃなかった……!」


 僕は後悔と狼狽(ろうばい)で、やっぱり最初からキックにしておけば良かったとか、頭の中が色々とパニックになっていた。


『タツヤ。私の欠片(かけら)を出して』


 ブルーの声で我に返る。そうだ。まだ何とかなる……のか?


『先程の治療案、私の欠片(かけら)触媒(しょくばい)に、治癒力を高めて回復を促すやり方では、この傷は癒せない。心臓自体が欠損してしまったからね。そこで、別の方法を使う。だが問題がある』


「問題?」


『触媒にするだけなら、不要になった私の欠片(かけら)は最終的に少女の体内から排出され、それ以降は普通の人間としての生活を送ることが出来たのだが……』


 ポケットから取り出した欠片(かけら)が青い光を放ち、パキパキと音を立てて形を変えていく。


『失った部位を私の欠片(かけら)で補って、同化を促し治療する。こうすると欠片(かけら)は肉体の一部になり、永遠に体内から取り出せない』


 形を変えた欠片(かけら)は、生き物のように動き始めた。見た事のある形だ。


『彼女の、人としての生活は終わる』


 ブルーの欠片(かけら)は、理科の教科書や人体模型で見た、〝心臓〟の形になった。なるほど、心臓を作ったのか!


『彼女は……タツヤ。キミに似た性質を得てしまうだろう』

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