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雨上がり

※視点変更

大波友里 → 内海達也

 彩歌は、魔法で河川敷にいる人たち〝全員の記憶〟を操作した。

 目を覚ましたら、雨が降った事さえ覚えていないだろう。

 しかし……結構な人数だけど、大丈夫なのかな?


「ふふ。簡単よ。〝消したい記憶〟は少しだけだし、みんな寝ちゃってるから」


 〝記憶操作の魔法〟は、相手の意識がない状態で行う必要があるらしい。

 そういえば病院の時は、両親も先生も看護師さんも、魔法で眠っていたな。

 

「魔法で大勢を眠らせる方が大変よ。でも……」


「でも?」


「全員、ちゃんと眠っていたのかしら? 万が一、ちょっとでも意識の残っている人が居たとしたら、あとで大騒ぎになるわね」


「意識がある人……か」


 居てもおかしくない。栗っちとか、大ちゃんだって、もしかしたら動けないだけで、意識はあったかも知れないんだ。


「もしそんなヤツが居て、騒がれたりしたら、こっそり眠らせて忘れてもらおう」


 と言った瞬間、近くに倒れていたユーリがビクッとしたような気がするが……気のせいかな?


「案外、(るり)が覚えていたりして、騒ぎ出すかもな」


 まあ、アイツは魔法なんか使わなくても、チーかま数本で大人しくなるから良いか。

 ……とか考えている内に雨は止み、全員が一斉に目を覚ます。

 そしてマラソン大会は、少しの遅れが出たものの、違和感もなく無事に行われた。






 >>>






 マラソン大会は、上位者の表彰式で幕を閉じた。

 一般の生徒たちが帰っていく中、栗っち、大ちゃん、彩歌と一緒に、テントの片付けや備品の回収等をしている。運営委員であるユーリの手伝いだ。


「マジか! いやいや、俺は全く気づかなかったぜー!」


 大ちゃんは、ダーク・ソサイエティが現れたことさえ知らなかった。完全に眠っていたようだ。


「えっとね、雨が降ってきて、凄く眠くなって、そこから覚えてないよ。起きた時はみんな寝ちゃってるし、ビックリしたけど」


「栗栖くん、雨の事は覚えているの?! ……そこまで消したはずなのに!」


 栗っちも寝てたみたいだけど、彩歌の魔法の方は効いていないっぽい。

 ……やっぱりスゴいな救世主。


『タツヤ。そんなに堂々と会話しても大丈夫なのか?』


『心配ないだろ。皆、忘れちゃってるんだし』


 それに、関係者以外は、ここには居ない……あ、ユーリが居たか!

 そういえば、さっきからユーリは、何か言いたそうにチラチラと僕を見て来る。何だろう。いつもなら何でもかんでも話し掛けてくるくせに。


「どうした? ユーリ、たっちゃんに何か用か?」


 大ちゃんも気付いたようだ。


「やー?! な、何でもないよ!」


「そうか? 作業なら俺がやるぜー?」


「ありがと! 助かっちゃうよー!」


 うーん。明らかに何かあるが、まあ、いいか。

 もし今日の事を見られていても、ユーリにだって秘密があるし……なんとなくだけど、他人に吹聴などはしない気がする。


「ちょっと何これ?! ひどい!」


 片付けを手伝っている妹が、河川敷の入り口で騒いでいる。

 

「何事だ? もしかしてアイツ、やっぱり記憶が消せてなかったのか?」


 ……とりあえず眠らせて記憶を抜くか? 生まれてからの記憶を全部抜いてもいいぞ。その方が世の中平和になる。


『やだ! いけない。達也さん、忘れてたわ』


『え…… 何を?』


『バリケード!』


『あっちゃー! そうだった……!』


 河川敷の入口付近には、ダーク・ソサイエティが登場の時に破壊した、ロードコーンとトラ(がら)の棒が散乱していた。


『黙秘しよう。犯人は土の下だし』


『……うん』


『タツヤ。地中に沈めたワゴン車から、今日の雨に含まれていた薬品と同じ成分が入ったタンクを見つけた。サンプルを、ダイサクの部屋の毒劇薬庫に残しておくよ?』


『了解。あとで大ちゃんに伝えるよ』


 なるほど。雨を降らせていたのはワゴン車だったのか。きっと〝高性能アメフラシ機〟とか使ったんだろうな。


『タツヤ、それらしき装置も発見した。キミの部屋に移動させておこうか?』


 いやいや。そんなのが僕の部屋から発見されたら、いよいよ雨男(あめおとこ)容疑が固まっちゃうだろ。


『まあ、何かの役に立つかもしれないし、大ちゃんの部屋に置いといてくれる?』


『了解だ。あと、蜘蛛女(くもおんな)と黒スーツの残骸だが……』


『あいつら、体内に毒ガスとか爆弾とか入ってるし、地下室に置くのは怖いよな』


 加えて〝蜘蛛女〟は、人間部分が犬猫サイズとは言え〝死体〟だし、正直気持ち悪い……


「大ちゃん、ちょっといい?」


「あー、メガネなー」


 相変わらずスゴいな。なんで分かるんだろう……

 大ちゃんは、僕が(うなず)く前に〝凄メガネ〟を取り出した。


『今日の雨の成分サンプルと、雨を降らせる装置を大ちゃんの部屋に移動させてもらうから』


『あー、了解。後で調べてみるぜ』


『あと、さっき倒した、蜘蛛女と黒服の機械人間、地中に沈めてあるんだけど、要る?』


『おお! マジか、たっちゃん! それは絶対欲しいぜー!』


 やっぱり聞いてよかった。でも、危ないんじゃ……


『機械人間は、色々と危ないから、一番損傷の少ないやつを一体だけ、俺の部屋に届けて欲しいなー』


 言うまでもなく、とっくに考慮済みだ。


『了解したダイサク。いつ爆発してもおかしくないので、キミが部屋に戻って、変身した後で届けよう』


『助かるぜ、ブルー! あとさ、冷凍とかが出来ると便利だけど、なんとかなるかなー』


『蜘蛛女の生体部分の保管だな。そう来ると思って、冷凍室と冷蔵室を作成中だよ。あと2時間で完成する』


『さすが! わかってるなー』


『ダイサクは本当に熱心だな。頭が下がるよ』


『いやいや、俺は好きでやってるんだぜー! 傍目(はため)には、ただの変わり者だろうけどなー』


 でも、そういう一握りの〝変わり者たち〟が、世界を動かしてるんだよな。純粋に凄いと思う。






 >>>






「やー! みんなありがとうー! 助かったよー!」


 後片付けが終了して、僕たちはそれぞれの帰路についた。

 別れ際まで、ユーリは僕の方を見ていた。やっぱり今日の戦いとか、見られていたのかもな……


『なあブルー、ユーリに話そうか』


『そうだね。悪意も敵意も無さそうだし。ただ、水曜日が終わるまでは、様子を見よう』


『分岐点、か』


『うん。彼女の方も、なにか〝予約〟が有るらしいが、キミの使命はこの星の寿命に関わる。申し訳ないが、後回しだ』


 そうだな。とにかくユーリには、オランダ、アメルスフォールトでの分岐を、無事に導いてからゆっくり事情を話そう。

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